杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 12月3 No.79


杉並区の「レジ袋税」構想を考える その論点(その2)


 杉並区は、昨年9月、スーパーなどのレジ袋に対して一袋5円の「レジ袋税」を課す方針を打ち出しました。私のページでは、その直後、さっそくその論点(その1)をアップし、問題点を整理するとともに、投票掲示板も設置して、意見の集約を図ってきました。


参考 杉並区の「レジ袋税」構想を考える その論点(その1)


 その後、4ヶ月を経て、議論も深化していますので、前回の続編として、これまでの議論を踏まえたうえで、新たに5つの論点を整理してみました。引き続き、ご意見をお寄せいただければ幸いです。

■レジ袋税の論点(その2)
区境地域は、他区に客を取られる可能性も
本来、環境税は、経済とも両立をめざす税であるはずだが? 
なぜ、有料化ではダメなのか? レジ袋「有料化」案の限界
分別収集を徹底させるほうが先ではないか?という批判
10. スーパー・コンビニなどをねらい撃ちにした新たな経済的規制ではないか?
                    (→独自の大型店規制が立て続く杉並区)
 6.区境地域は、他区に客を取られる可能性も

 レジ袋税の導入にあたって、現在、もっともクローズアップされている問題は、区境地域(他区との隣接地域)に深刻な影響が出る可能性がある点でしょう。

 たとえば、杉並区と世田谷区が隣接している桜上水駅周辺の商店街。杉並から世田谷にかけて店が並んでいるところです。まさに、わずか数分先を歩けば、レジ袋に非課税の店が並んでいるわけです。これでは、レジ袋に課税しない世田谷区側の店舗に多くの客を奪われてしまうではないか・・・というわけです。

 たしかに、杉並は、東西交通が発達しており、わずか数分、電車や車に乗って他区にいけば、いくらでも商品の購入先があります。夜間区民が多い杉並では、レジ袋税の影響力にも限界がある・・・という批判は有力な批判の一つでしたが、桜上水の場合は、とくに深刻かもしれません。

 そこで、少なくとも、区が真剣にレジ袋税を成功させたいというのであれば、周辺各区にも同じように導入してもらえるよう要請を行うべきでしょう。

 もっとも、現実には、各区の課税自主権を犯すような強い要求をするわけにもいかないでしょうが・・・しかし、本当に実施するつもりであれば、杉並という狭い範囲だけで実施するのではなく、可能なかぎり、広域でレジ袋税が導入されるよう、模索していくべきだと考えます。

 杉並病騒ぎを払拭するためにも(=「10年以内に杉並中継所を廃止する」という区長の大目標を実現するためにも)、また、最終処分場(埋立地)を延命させるためにも、ゴミの大幅削減は必要不可欠。杉並中継所に運ばれる不燃ゴミの約半分は、練馬区と中野区から出されている不燃ゴミですし、当然ゴミの減量に向けた取り組みは、広域的に取り組む必要があります。

 しかし、近隣の協力が得られない場合は、どうするのか・・・レジ袋税調査会議の場において、区は区境地域の商店街に対する独自のサポートも念頭においているやに説明していますが、経済と環境をどのようにバランスをとっていくのか、非常に難しい政治的判断が迫られています。


7.環境税は、経済とも両立をめざす税であるはずだが?

 環境税といえば、ふつう環境汚染の原因になるモノやサービスの税金を重くする反面、逆に環境保全につながるものには税金を軽くすることで、経済的に環境汚染を抑制しようとする税を指します。

 つまり、税改革を行っても税収に増減がないようにするという「中立の原則」に基づいて課税するのが、環境税の基本にあるべき精神だと思います。実際に、環境税をいち早く導入しているヨーロッパにおいても、このような税制中立の原則に則って環境税を導入しているわけであり、増収目的で環境税を導入しているわけではありません。

 この意味では、先進国の環境税は、「増税にはなっても増収にしない」ということで、経済ともバランスをとっている税というわけです。

 ところが、杉並の「レジ袋税」の場合、これとは正反対で、「増収となる増税」になってしまう(環境に優しいものに対する減税がない)ため、説得力が弱いのだろうと思います(もちろん、こうした減税は、現在、区レベルでは実現不可能なことです)。このため、レジ袋税は「環境保全への気持ちを利用した増税と利権の拡大」だという批判もあります。

 区も、環境目的の基金を創設することや、税収は環境対策のみに使うと言っていますが、この財政難の中では、わずかな額ではあっても、実に有り難い増収になるのは否めない事実でしょう。

 実は、私も、この部分にいちばん引っかかりを感じています。このような「増収になる増税」を一度認めてしまえば、財政に規律がなくなり、歳出削減(リストラ)が先送りされる可能性は否定できません。しかも、結果として「増収になる増税」をしておきながら、赤字区債(減税補てん債)を大量発行しつづけるのでは、区長の選挙公約や従来の政治的主張とも整合性がとれず、強い疑問を持たざるを得ません。

 それがわずかな税収規模であったとしても、赤字区債の発行停止ないし大幅圧縮をすることもなく、レジ袋税を導入するというのでは、財政規律をなくす危険性があり、本来、あまり好ましいものではないと思います。

 ただ、ゴミ問題の深刻さを考えれば、これをもって導入反対の論拠とするのは、難しいところです。というのも、レジ袋税は、レジ袋の使用が減れば税収も減る税であるため、増収規模が縮小することはあっても、拡大することはないからです。

 このように、レジ袋税が安定した税収源にはならないことを考えると、区が「5年間の時限措置として課税する」という範囲では、これをもって反対の論拠とするのは、難しいと考えています。もちろん、これも、難しい政治的判断を迫られる点ではあります。


8.なぜ、有料化ではダメなのか? レジ袋「有料化」案の限界

 「税」に対する嫌悪感から、「税にするよりも、レジ袋を有料にするのがよい」という意見も寄せられています。これに対する区の答弁は、「区内の店がいっせいにレジ袋を有料化すると、公正取引委員会の規定に引っかかるから難しい」(=独占禁止法違反)というものでした。

 たしかに、価格を話し合いによって一律に決めた・・・ということが立証されてしまえば、独禁法違反でしょう。しかし、どこか1社がレジ袋の有料化を先行スタートさせ、それに続いて他店が次々と有料化を決めた結果、区内全域に有料化が広まった・・・ということであれば、なんの問題もないことです(ビールなどの値上げも、みなそれで法律をスリ抜けているはずです)。

 このように、有料化を模索していくなかで、レジ袋税に対する対案ができるのではないか・・・このような考え方も、面白いかもしれません。これならば、「税」や「行政」に対する不信感を露わにする方にも、納得してもらえるかもしれません(どちらにせよ、小売業者は納得しないかもしれませんが)。次善の策としては、一考に値すると思います。

 ただし、この案の場合、抜け駆けする店(レジ袋を無料にする店)に対する罰則を設けることが難しくなります。また、税とは違って強制力が弱いだけに、商店会等で誰かひとりでもゴネだせば、導入への努力が水の泡となり、取り組みが白紙に戻りかねません。

 有料化では、結局はモラルに訴えるだけの形になってしまい、ゴミ削減効果が低くなってしまうわけです(有料化しない店に対する罰則の制定は、現行法制度上、無理があります。行政にできることは、有料化に従わなかった場合に、氏名の公表を行う程度が関の山になってしまうのです)。

 議論は分かれると思いますが、「税」のもつ強制力は実に大きなものがあります。有料化は次善の策としては評価できますが、ごみ問題の深刻さを考えれば、レジ袋税の対案にはなりえないように感じています。


9.税を集めることよりも、分別収集を徹底させるほうが先ではないか?という批判

 「現在、分別収集が徹底されてもいないのに、先に課税を優先させるというのは、矛盾している」という声があります。こうした声にも一理あるでしょう。

 分別収集の最先端をいっている水俣市では、ゴミは23分別(収集)されており、さらに市がそれを80種類以上に分別して再利用を図るという徹底ぶりです。水俣病の教訓を生かした取り組みというわけですが、当然、杉並でも、杉並病の教訓を活かした取り組みを行うべきでしょう。しかし、分別収集にも費用がかかるのであり、このあたりは、多くの方に、しっかり理解してもらわなければなりません。

 そこで、新たな分別収集にかかる費用を「レジ袋税」で賄うという理屈を出し、それを税額の根拠にし、区民の納得を得るという方法もあると思います。もちろん、実際に税を導入すれば、レジ袋の使用が抑制されるでしょうから、そんな計算は半ば皮算用に終わってしまうことでしょうが・・・

 ただ、区民の中には、税収が本当に環境目的に限定して使用されるのか、疑問を持っている方もいるわけで、よりしっかりした説明責任を果たす必要があると思います。論点7でも指摘したように、レジ袋税は、環境に優しいものに対する減税措置が伴わない一方的な増税措置となってしまうことは否めない事実であり、それが不信を買っている大きな原因なのです。

 当初、レジ袋税が提案された頃には、このような「税額の根拠」は、非常に薄弱でした。誤解を恐れずに言えば、5円という税額は、「5円程度が適当だろう」という曖昧な判断だったともいえます。ただ、曲がりなりにも、「税」として徴収するのですから、何らかの明快な基準が必要なはずなのです。

 幸い、区は、最近になって、レジ袋の環境コストについて、具体的に説明するようになりました。それによると、原油の採掘・精製・輸送・製品化・流通など、すべてのコストが反映されたものを原価とすれば、レジ袋の環境コストは1円〜4円と説明し【※注】、税額5円に正当性をもたせるかのような発言をし始めています。それが妥当かどうかは別として、根拠を挙げて、説明・議論していくことは、当然、必要なことでしょう。

 環境保全には費用がかかるのであり、それはそれで堂々と負担を求めるべきです。区で徹底した分別収集を実施した場合に、いったいどのぐらいの費用がかかるのか、そのコストを解説しつつ、レジ袋税の必要性を説得していくといった努力を行い、協力を求めるべきでしょう。その過程の中で、いかに環境保護にコストがかかるものなのか、理解する区民も増えてくるのではないでしょうか?

 すでに、論点(その1)にも引用しましたが、消費者がレジ袋を使用を控える税額(消費者に抑制効果が働く分岐点)は、1枚10円だと具体的に根拠を挙げて指摘する学者もいます。いずれにせよ、「まず先に課税ありきというのは、けしからん!」という批判を今後受けることのないよう、導入にあたっては、税額の根拠を明確にする努力を怠ってはならないと思います。


 【※注】
 区も別途指摘しているのですが、実際には「市場経済の中で反映されない外部不経済(例えばごみ処理経費やリサイクルに要する経費、さらには大気汚染や枯渇する石油資源など)が存在し、これらを加えてはじめて環境コストと言える」と思います。実際には、4円どころではないとみるべきでしょう。


10.スーパー・コンビニなどをねらい撃ちにした新たな経済的規制ではないか?
       (→独自の大型店規制が立て続く杉並区)

 最後の問題は、レジ袋税構想と大型店規制の関係です。

 今回のレジ袋税構想について、否定的な見方をする方の中には、レジ袋税は、環境保全への気持ちを利用した増税と利権の拡大であると評する人もいます。というのも、

 【1】 昨年度(平成11年度)、杉並区では改正自転車条例が施行され、スーパーなどに対し、自転車駐車場の附置義務が強化されました。

 【2】 今年度(平成12年度・6月)に入ってからは、大規模スーパーなど特定商業施設の出店や営業について環境調整を行うための新条例が制定されました。この条例は、通産省や東京都などから、大店立地法を超える経済的規制の疑いがあるとの懸念を抱かれ、それが大きなニュースにもなりました(区は、あくまで環境規制と主張)。

 【3】 平成12年9月にそこに追い打ちをかけるように、今回のレジ袋税の提案が出てきた(小規模商店を免税にする=実質的に大型店中心の課税)というわけです。

 環境規制とはいえ、こうもスーパーなどの大型店を狙い打ちにした政策が立て続いてしまうと、大店立地法を超える新たな経済規制である・・・と思われても、弁解のしようがありません。

 とくに、区は、先の定例会で、益税が発生する可能性に言及しながらも、「免税事業者においてもレジ袋税を取ることが望ましい」などという見解を示しています。この点は、考えようによっては、益税奨励ともとれ、感心しないものがあります(新たなヤミの補助金と化すか? もっとも、事業者にすれば、納税額の割には、記帳その他面倒なことばかりが増え、負担が大きいばかりで、何の利益もないとも・・・?)。

 やはり、誤解を招かないようにするためにも、導入するなら、免税規定はなくすべきだと考えます。

 【追記・2001年】 なお、その後、「レジ袋税調査会議」の検討を受け、課税対象は消費者と変更していったため、免税措置は設けない方向になっています。

 【追記・2001年10月】 条例(区長案)が提示されました。全文はこちら


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