杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線 No.56




杉並病 中継所廃止への道のりを考える その2

杉並中継所を廃止するために必要なこと


 今回は、その2。その1のつづきになります。
(その1) それでは杉並中継所の廃止はできない!
テレビ報道された区長の「杉並中継所10年以内に廃止」発言。その矛盾を検証する

 (その1)で指摘したように、報道された区長の「杉並中継所10年以内に廃止」発言には矛盾も多く、その実現は非常に厳しいものがあります。 議会でその点を突いてみたところ、この問題を実際に担当している区の環境清掃部長は、「区長の発言は努力目標に過ぎない」との答弁を返しています(災害・環境問題対策特別委員会)。もともと、そうそう実現できないことなのですから、10年以内に廃止すると確約するわけにもいかず、非常に苦しい胸の内がある様子が感じ取れました。

 しかし、今回のテレビや新聞報道によって、区民のなかには10年後に杉並中継所そのものが無くなると思った方も少なくありません。調査の不十分さから、あいかわらず大気の毒性が疑われ続けており、被害者を中心に杉並中継所の廃止を要望する声は根強いものがあります。3月末に発表した都の調査委員会の出した調査結果も、依然として疑問の声があがっています。不安を感じる方々の期待感を無視するわけにはいかないでしょう。

 それにしても、悩ましいことになりました。たしかに政治家(首長含む)は夢を語ることも必要ですが、最近では政治家が公約を守らないという批判も激しいものです。区としては、区長のした公約(努力目標)を実現するために何ができるか、難しい課題を背負うことになりました。非常に苦渋の選択になりますが、どうすればよいのか、私なりに考えてみました。


 杉並中継所のあり方改善案とその問題

 選択肢としては、次のようなものがあります。

@即時廃止する場合
  人件費や交通量が増えることを覚悟して廃止する。

A人件費や交通量を増加させずに廃止する場合

  3区(杉並・練馬・中野)のゴミを1/12ぐらいに減らしたうえで円満に廃止する。

B圧縮作業だけをやめる場合
  3区のゴミを1/3ぐらいに減らしたうえで、中継所施設は存続させつつも圧縮作業については停止する(単なるゴミの積み替え施設に転用する)。


なぜ、1/12や1/3でなければならないのかについては、その1をご覧ください。

 私は、その折衷案で解決できればと考えていますが、それに触れる前に、まずは以下それぞれのメリットと問題点をまとめてみました。なお、区長提案は、10年以内に杉並区のゴミを半減させ、中継所の圧縮作業を停止する(施設は存続)というものです(その内容や問題点など詳細については、その1を確認ください)。


●杉並中継所のあり方改善案とその問題
選択肢 メリット 問題点
@ ●人件費や交通量が増えることを覚悟して廃止する。
・被害者側の要求にかない、最も理想的な方法といえる

・中継所の廃止によって多くの疑念が解消する可能性が高い

・原因施設が廃止されることで、失われた杉並(井草森公園周辺)のイメージを回復することができる

●財政負担が増える(杉並区分だけで年間約7億円弱の負担増とも)
●行政自ら交通量を増やす結果となる(杉並区分だけで約9倍の増)
●他の23区や東京都に納得してもらう必要がある(現状では非常に困難な情勢)
●とくに江東区などから「地域エゴ」との批判が起こり、第二のゴミ戦争が発生する可能性がある
A 3区のゴミを1/12ぐらいに減らしたうえで円満に廃止する。 ●10年以内に1/12にするという数字は、目標が高すぎて、あまり現実味が感じられない。
●現実にゴミを1/12にするには、ライフスタイルをガラッと一新させる必要がある。
●区民がどこまで「便利な生活」を放棄することができるか?
●杉並はともかく、練馬や中野に対しても、同じように協力してもらえるか?

B 3区のゴミを1/3ぐらいに減らしたうえで、中継所を単なるゴミの積み替え施設に転用する

●圧縮作業を停止するだけで、施設は残る


・少なくとも圧縮作業を停止することで危険性を軽減できるという指摘がある

・施設の完全廃止よりも早期に実現できる可能性が高く、財政負担も軽く済む

●中継所は廃止されず、存続してしまう
●中継所が存続するため、多くの疑念が解消されない。また、「杉並病」という悪いイメージも払拭することができない。

10年以内に1/3にすることができるか? ライフスタイルを変えることができるか?
●被害者の求めにかなっておらず、根本的な解決にならないという意見がある。
●他区や東京都が杉並中継所だけの用途変更を認めるものか?また、練馬や中野が、杉並と同じような問題意識をもって協力してもらえるものか?
区長発言 ●「廃止」との報道は、記者の誤解。施設は残るが、圧縮作業を停止するというのが本意だそうである。

杉並区のゴミを半減し、中継所を単なるゴミの積み替え施設に転用する
●中継所が廃止されず存続してしまうなど、Bで指摘したデメリットがそのまま当てはまる。その他、Bにない特有の問題点として、以下を挙げることができる。
●ゴミの半減程度では、圧縮作業の停止すらできない。区長の発言は実態を踏まえていない。
●かりに杉並のゴミを減らしても、その分、練馬のゴミがどんどん流入してくる制度になっている。そのため、練馬や中野にも協調してもらう必要性がある。
●廃止との報道は誤解と指摘しつつも、一方で区長は「跡地をリサイクルセンターにしたい」とも発言。しかし、施設が残るのに、どこに跡地があるというのか?

いずれ劣らぬ大きな問題が

 @ABのどれも、おおむね現在の制度の枠内を大きく踏み外さないで改善を図っていくことができますが、いずれ劣らぬ大きな問題を抱えていることがお分かりいただけると思います。いちばん簡単なことは、だましすかし現状を維持していくことであり、放置しておけば行政はその方向に進んでしまう可能性があります。

 その意味では、トップである区長の今回の大胆な発言が一石を投じたことは間違いなく、区長が不退転の決意を表したという意味では、評価できます。ただ、その内容には矛盾があり、整合のとれない部分も多いのが実状です。そこで、整合性のある3つの可能性を検討してみました。それが上記の@ABです。

 ただ、@を選んだ場合は、かなりの費用負担が発生する点について、区民に説明し、合意を求めていく必要があります。しかし、それ以上に問題になるのは、都や他の区が地域エゴと反発してくる可能性がある点です。他区が反発してくる可能性に対して、どのように反論し、またどのように根回しを進めていくか、重い課題を背負うことになるわけです。先も指摘したように、23区全体で運営する一部事務組合が清掃事業を運営している以上、他区を説得させないことには、どうにもならない現実は実に重いものです。

 Aを選んだ場合は、私たちのライフスタイルをガラッと一新させる必要があります。いま1週間に1度出している不燃ゴミの量を思い返してみればいいことです。それを1/12にするということが、いかに厳しいことか、よくわかると思います。とくに、杉並のような住宅都市では、多様なライフスタイルが共存しており、特にひとり暮らしの場合は、ゴミを減らしたくとも減らしにくい環境下にあるとも言えます。

 また、先の指摘したように、杉並だけが努力してもダメであり、練馬区や中野区にも、同じような協力を仰ぐ必要があります。とくに減らせば減らすほど練馬のゴミが流入してくる現実を考えれば、練馬の協力が不可欠ですが、杉並と同じ認識で協力してもらう必要があります。

 Bを選んだ場合は、中継所が存続するため、そもそも「廃止」とは言えなくなってしまいます。本当にそれで被害が無くなるのなら良いのですが、その疑いが完全に晴れたとはいえないのが実状ですので、理想的な姿とはいえない部分が残ります。ただ、この3つの中では、もっとも現実的な改善方法で、実現性は比較的高いと言えます。

 これまでの経緯から言って、@では、他の区や東京都は絶対に納得しないでしょう。しかし、Aは実現性がきわめて低く、10年間で達成できるとは思えません。Bでは「廃止」にならず、しかも、ゴミを1/3にするという目標値も、今の23区のゴミの実態を目の当たりにしたとき、その実現は困難であると思います。


杉並中継所を廃止するために

 そこで、私は、

(T)現実的に可能なレベルである3区のゴミの半減を一つの目安とし、
(U)3区のゴミが半減した時点で中継所を廃止することできるよう、杉並区は都や他区に対して交渉・地ならしをしていく

 ・・・というあたりを現実的な着地点とし、動き出すべきではないかと考えています。

 もちろん、杉並の地域エゴのようになっては失礼ですし、区民も相当努力しなければならない課題です。ただ、10年以内に不燃ゴミの半減を達成するという難題に区全体で挑むことを公言し、仮にそれが達成できた場合は、「杉並病」の危険可能性を鑑み、施設を廃止させてほしい・・・とは明確にすべきだと思うのです。このまま中途半端な努力目標を掲げていても、廃止も圧縮の停止もできないですし、そんなことでは被害者救済はおろか、風説も収まらないことでしょう。それどころか、水俣病や豊島産廃問題のように、被害の垂れ流しのようなことにでもなれば、最悪です。

 繰り返しになりますが、現実的に、ただゴミが半減した程度では、圧縮作業の停止も、施設の廃止も不可能なのです。少なくとも、そこを曖昧にしたまま、あたかも、それができるかのような幻想を振りまくのは、やめるべきではないでしょうか。区民にも厳しい覚悟を求めつつ、現実的にも解決することができるよう動き出すべきです。


 現在の体制で、3区のゴミが半減した程度では、中継所を廃止することも、圧縮作業を停止することも、そのどちらも不可能です。しかし、それが実現できるまでただ漫然と待っていたら、解決までいったい何十年かかるかもわかりません。排出される大気の分析は中途半端なものに留まっており、人体に恐ろしい影響を及ぼしている可能性は、まだ拭いきれません。花粉症のように、同じ空気を吸っていても発症する人としない人はいるわけで、時代とともに健康だった人が突然体調不良を訴えるような事態が、今後も発生しないとは限らないのです。

 すでに指摘したとおり、半減した時点での廃止では、財政への負担は大きくなりますが、今後、健康状態を維持し、環境保全するためにかかる経費を確保していくことはやむを得ないと考えています。もちろん、再三指摘しているとおり、ゴミを出す私たち全員が被害者でもあり加害者であるということを肝に銘じ、できるかぎりゴミを出さない生活を模索することが、なにより重要なことです。今後出される区の「環境行動指針」を踏まえ、改めてこの問題を話題にしたいと思います。




ご意見、ご感想はこちらまで