杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線 No.55



テレビ報道された「杉並中継所10年以内に廃止」発言。区長発言の矛盾を検証する

それでは杉並中継所の廃止はできない!

杉並病 中継所廃止への道のりを考える その1

 このコーナーで何度も取り上げてきた「杉並病」問題。少なくとも、過去において、不燃ゴミの圧縮中継施設の杉並中継所が、いわゆる「杉並病」と呼ばれる健康不調の原因をつくった施設であることには、異論のない段階になりました。ただ、現在に至るまで、その原因が残っているかどうか、被害者と杉並区には相変わらず見解の相違がみられ、被害者は中継所の廃止を求める一方、杉並区は安全性を確保した上で操業を続けることを主張している状況にあります。

 そんなある日、早朝の全国放送のテレビ番組で、「杉並中継所は10年後に廃止される見通し・・・」というようなアナウンサーの声が聞こえてきました。いつの間に、そんな発表をしたのだろう?聴いてないぞ・・・と不思議に思って声を大きくしてみると、東京新聞の記事を紹介していました。この記事を紹介したアナウンサーは、「杉並病」との関連性を指摘し、中継所の廃止方針を「むしろ遅すぎたくらいですね」とコメントしていました。

 さっそく確認してみると、一面トップと東京面の双方で、大きな記事になっていました(東京新聞5/19朝刊)。これを報道したのは東京新聞だけでしたが、その東京面をみると、区長のインタビューの概要記事が載っており、東京新聞の単独会見で、他紙は知る由もなかったようです。もっとも、これまで廃止したくてもできなかった施設だったのですから、他紙も知っていれば、一面トップのニュースになっていただろうと思います。


 これまで廃止できなかった理由

 ところで、これまで杉並区は、杉並中継所を一時停止したり、廃止したりすることができない理由として、次のような説明をしていました。

出典:「井草森公園周辺環境問題の主な論点に関する杉並区の見解について」より
    平成11年12月 杉並区環境部・保健衛生部

 この問題が起きた平成8年から現在(引用者注:平成11年12月)に至るまで、区や都が実施した各種調査では、中継所を健康被害の原因施設と特定できる客観的なデータが得られていない現状で、一時停止による社会的影響からも、一時停止を都に求めることは非常に困難であると考えるものです。

 また一時停止した場合の影響ですが、試算では、現行の人員・機材で収集した場合、区内での不燃ごみの約8割が毎日取り残しとなるほか、停止期間によっては再開後、正常の作業活動に復旧できるまでに相当の期日を要することが予想されます。仮に現行の週1回の収集を確保し、不燃ごみの全量を収集する場合、他区を通過する清掃車両は杉並区分だけでも1日当た延べ約100台が増えることとなり、経費面では1日当たり約220万円、年間では約7億円弱の負担増となります。



 ※注 この文書は、昨年11月の特別委員会(災害・環境問題対策特別委員会)の場で、私が提出を求めたもので、12月末に提出されたもの。こうした内容について、区は口頭で説明することはあっても、文書でそれが配布されることはなく、過去の区の見解を説明する数少ない資料のひとつといえます。

 一言で言えば、社会的な影響が大きいので中継所は無くせない、ということだったわけです(現在は中継所でゴミを圧縮しているため、処理・処分場へ向かう車両年間約6万台の削減になっています。これをやめれば、清掃車の交通量が9倍近くに増加すること。交通渋滞などの問題もあり、他区の理解が得られないこと。財政負担が大きくなってしまうこと。科学的に原因が特定できていない段階である以上、操業停止を求めるのは地域エゴで説得力がないこと・・・などを指摘したいわけでしょう)。

 そんな従来の説明をイヤと言うほど聴かされていた私としては、今回の区長発言「杉並中継所10年以内に廃止も」には、驚きました。この発言は、これまでの説明と整合しない部分があったからです。そこで、東京新聞をみてみると・・・


以下、東京新聞5月19日朝刊より引用
●区長 「最大のテーマは、不燃ゴミの70−80%を占めるプラスチック系をどれだけ分別回収できるか。これができればゴミ量は半減が可能だから、不燃ゴミを圧縮して半分にしているだけの中継所はいらなくなる。中継所はあとでリサイクルセンターなどにしたいと思う」
●記者 
「何年かかる?」
●区長 
「10年以内にしたい」            


 そもそも廃止する予定も計画も、これまでの区には全くない発想でした。そこへいきなり10年後には跡地をリサイクルセンターなどにしたい・・・という発言が出てきたわけです。いよいよ、これで廃止に向けて動き出した!これまでの努力も報われた!と嬉しかったのも事実ですが・・・ただ、杉並区に立ちはだかっている「現実」とどのように整合をとっていくのか、いよいよ真剣に検討しなければならない課題となりました。

 本当に廃止できるのなら、それでいいのです。ただ、本当に廃止するというなら、都や区がこれまで説明してきた行政側の考え方を放棄しなければ、廃止することはできないはずです。しかし、行政がゴミ処理のあり方について考え方を大きく変えたわけではありませんでした。


 ゴミ半減では廃止できない現実

 すでに過去に指摘していることですが、杉並中継所というのは、持ち込まれた不燃ゴミを約半分に圧縮しているところです。しかし、実際にはそれは大型の清掃車に詰め込まれているため(小型清掃車約9台分のゴミを半分に圧縮し、1台の大型清掃車にまとめて運んでいる)、最終処分場(埋め立て地)まで運んでいる車の数は、約1/9になっています。

 要するに、
区のこれまでの主張に沿った形で杉並中継所を廃止するには、ゴミは半減ではなく、1/9にしなければならないはずです。確認になりますが、区は、中継所を停止できない理由として、交通量の増加や人件費など経費の大幅な増加を理由に挙げていたわけです。圧縮をやめると最終処分場に行く清掃車の量が9倍になってしまう・・・と。9倍にならないようにするためには、1/9にする必要がある。ごく自然な算数式です。ここで考えなければならないのは、もしゴミの量を1/2にした段階で中継所を廃止してしまったら、最終処分場に行く清掃車の量は4.5倍に増えてしまうという現実です。


 それは「廃止」といわないのでは?真意は「圧縮作業の中止」という意味だったと。
 
では、跡地をリサイクル・センターにするというのは??中継所施設が残るのに、いったい、どこに跡地が?

 ところが、このような背景があっても、これまでの議会での説明よりさらに踏み込み、10年以内に中継所を廃止したい・・・という目標が区長の口から出されたわけです。ただ、私は、いくらリサイクルを推進し、徹底しても、そんな簡単に不燃ゴミの量が9分の1にできるとは思えませんでした。しかし、理想としては、素晴らしいものだと思いますし、私は、区長の打ち出した方針が、どのような見通しのもとで進められるのか、さっそく議会の場で、その真意を尋ねてみました。もちろん、そのときは「不燃ゴミの量が半減したら、交通量が4.5倍に増えても中継所を廃止してもいいと、そう区長は考えているのかもしれない」と思ったりもしました。

 ところが、なんと、あれは東京新聞の誤解で、区長が言いたかったことは、中継所を10年後に単なる積み替え施設にするという意味であり、ただ圧縮をしないで済むようにしたいとの意味だったというのです。要するに、あの発言は、10年後に中継所施設を無くすという意味ではなく、圧縮作業だけを廃止したいという意味だったわけです。だから、単なる積み替え施設にするだけなのだから、ゴミの量を9分の1にまでする必要はなく半減でいい・・・と区長はこのような説明をしているわけなのです。

 しかし、素朴に思うのですが、それは「廃止」といえるものなのでしょうか?せいぜい、それは「機能停止」というべきものであって、およそ「廃止」とは言えないものではないでしょうか? 実態としては、中継所施設が存続するわけですから・・・実際にも議会や行政関係者はともかく、多くの人が「廃止」と聴けば、中継所がなくなってしまうと思うはずで、この落差は非常に大きいと思います。

 しかも、区長は跡地をリサイクルセンターにしたいと言っています。しかし、いったい、どこにリサイクルセンターを造るというのでしょうか? 中継所施設が残るのに、どうして、跡地をリサイクル・センターに転用することができるというのでしょうか? 施設が残るのに、どこに跡地があるというのでしょうか? この矛盾はまったく説明がつきません。区長はただ理想を語っただけなのかもしれませんが、現状ではあまりにも実現困難な話であり、それを暗中模索のなかで検討させられる現場の職員のご苦労をお察ししてしまいます。


 練馬のゴミがどんどん流入する以上、
 今の制度の下では、そうそう「圧縮の停止」すらできない現実

 いまの制度のままでは、かりに不燃ゴミを半減させることができても、実際には機能停止する(圧縮作業を中止し、たんなる積み換えだけを行う施設にする)ことはできないということも、ここで確認しておかなければなりません。

 現在、杉並中継所に運ばれている不燃ゴミの割合は、杉並50%・練馬35%・中野15%という割合になっています。たしかに、年々、杉並の占めるシェアは減少しています。ですから、うまくいけば、不燃ゴミの半減は、不可能ではありません。しかし、問題はそれでもうまくいかない原因があるのです。

 数字が明らかにしているように、杉並中継所に持ち込まれるゴミのうち、杉並以外のゴミの割合が約半分あります。とくに練馬の割合が高いのは、練馬区に中継所施設が存在していないうえ、練馬区には60万人もの人口がいるためです。その結果、現在、練馬区から出される不燃ゴミの過半が中継所施設を通ることなく、そのまま最終処分場(埋め立て地)に運ばれているという現実があります。交通量や経費を減らすため、可能な限り、ゴミを中継所で圧縮し、容積を減らすのが現在の方針です。杉並のゴミが減っても、減った分はそのまま練馬のゴミを入れるという構図がある以上、ゴミを半減した程度では、問題は解消されず、中継所での圧縮作業は続くわけです。

 このように、杉並で不燃ゴミを減少しても、練馬の不燃ゴミがどんどん運ばれてくる以上、かりに杉並の不燃ゴミが減っても、杉並中継所に運ばれる不燃ゴミの量が減るという構図にはなっていないのです。私が試算したところ、現在の制度の下で圧縮しないで済む量にするには、杉並も練馬も中野も同じように不燃ゴミを少なくとも現在の約1/3にする必要があります(なお、中継所を完全廃止するには、この3区全体のゴミを少なくとも現在の約1/12にする必要があります)。しかし、杉並だけでも実現するのが苦しい数値だと思いますが、練馬や中野の協力をどのようして得ていくのか、難題といえます。


 考えられる方法は?

 ところで、この件に関して、「練馬のゴミを受け入れることを拒否してしまえばよいではないか?」という指摘を受けたことがあります。もちろん、それが可能な状況にはありません。

 たしかに、杉並中継所は杉並区の区有財産ですが、清掃事業は東京23区が共同で運営しているため(特別区清掃一部事務組合が業務を担当しているため)、杉並だけの意思でなんでも好き勝手なことはできないのです。練馬のゴミを受け入れないことを決定するにも、他の区の賛同が必要になりますが、現状では、それが実現できる可能性はゼロと言わざるを得ません(だいたい、当の杉並区ですら、科学的な証拠がないことを理由に、廃止に消極的だったのは、すでに指摘したとおりです)。

 また、すでに3月第3週の報告(予算にみる杉並病対策)でもお伝えしているように、中継所の廃止や用途変更にあたっては、向こう20年の間、東京都の承認が必要という規定があります。ここでも杉並区が勝手なことを決めることはできないのです。

 この問題を担当する区の環境清掃部長からは、区長の発言は努力目標に過ぎないとの答弁が返ってきました(災害・環境問題対策特別委員会)。要するに、これまでの区の考え方はいっさい変えないということなのです。しかし、これまで見てきたように、本当に10年以内に廃止するというなら、考え方を変えないことには、実現できないのです。

 とくに、今回のテレビや新聞報道によって、区民のなかには10年後に杉並中継所そのものが無くなると思った方も少なくありません。このような四面楚歌のなかで、どのように解決を目指すべきか、次の6月第4週で検討していきたいと思います。


 つづきはこちら
 杉並病 中継所廃止への道のりを考える (その2)
 〜杉並中継所を廃止するために必要なこと
 


ご意見、ご感想はこちらまで