杉並区議会議員(無所属)堀部やすし最前線
対案なき「多選自粛条例」の廃止は問題である(6)
平成23年(2011年)1月


 【疑問4】 代替案(対案)なき廃止は改革に逆行

 日本の地方自治法が、知事・首長に対し、一般的な大統領権限を超える強力なリーダーシップの発揮を認める制度を採用している点は、すでに述べたとおりである。
 一人で数多くの権限を集中的に保有している自治体の首長は、地域社会における絶大な権力者となっている。
 もちろん、これにはメリットもある。トップダウンでなければ物事が動かないケースは多数存在しているからである。しかし、悪い首長が暴走した場合は抑制が働きにくく、独裁者となりかねない。ここをよく考える必要がある。
 杉並区長の多選自粛条例をはじめとする杉並ルールは、このデメリットを最小限に止めるために整備された知恵であった。

●対案なき廃止でよいのか

 多選自粛条例を廃止するのであれば、これに代わる対案(独裁者の暴走を止めるための仕組みづくり)は、必要不可欠というべきであった。
 しかし、今回の条例廃止にあたり、田中区長から何ら具体的な代替策が打ち出されることはなかった。これは今後に残った大きな課題である。 
 区長が独占している予算編成権や発注権・人事権が悪用されると、予算の箇所付けや規則制定権を通じて区民や職員の立ち位置を揺さぶり、区長に刃向かえないように誘導することが可能になってしまう。
 地方議会において「オール与党」といった現象が発生したり、極端に厳しい締め付け(会派・党議拘束)が横行したり・・・このような状況がみられるのは、理由のないことではない。
 日本の地方議員は予算編成権を有していないため、首長のご機嫌を取り、予算をぶんどってくるのが仕事になってきたのである。このため、多くの人々が、首長に擦り寄っていく。区政を厳しくチェックしたり、無駄な支出をカットさせたりしても、恨まれるばかりで票にならない現実もあり、首長との取引や癒着を深めていく・・・。
 このような地方政治の現状を踏まえると、本条例の廃止に伴う弊害は大きく、代替策を真剣に検討する必要があったというべきである。
 多くの人は、議会を招集するのは、議長だと思っているが、それは違う。
 日本の地方自治制度は、議長権限のみで議会を招集できない歪な制度が採用されており、予算の議決範囲も、ごく一部の範囲に制約されている(地方自治法)。
 その結果、各地で専決処分や予算流用が頻繁に発生してきた。
 しかし、予算流用は、執行権の範囲と言い張ることができたとしても、議会を開くことなく一方的に仕事を進める専決処分の濫用は問題である。これは阿久根市だけの問題ではない。
 杉並区においても、かつて区の公金を扱う「指定金融機関の指定」といった重大案件について、議会を招集することなく安易に専決処分を行った経験がある(杉並区の指定金融機関は、みずほ銀行だが、これは議決を得ることなく、専決処分で決定されたものである)。
 なお、予算流用は現在でも茶飯事である。決算審査の際、明らかになる予算流用の状況を確認すると、予算当時の見通しは何だったのかと愕然とさせられる場合もある。

●改革の流れに逆行

 杉並区では、このような制度的現状を踏まえ、トップダウンによる行政刷新を進めつつも、権力の暴走を抑制するべく、これを牽制する諸制度を整えてきたのである。
 たとえば、@パブリックコメント(区民意見の提出手続)を条例上の手続として正式に位置づけたこと、A客観的な行政評価・外部評価を毎年実施し、公表するようになったこと、B区長選マニフェストが重要視され、これを周知徹底するための経費が予算計上されるようになったこと、C区独自に多選自粛条例を制定したこと・・・など、いずれも権力の暴走を客観的にチェックし、牽制する仕組みであった。
 ところが、今回の提案は、このような流れを突然断ち切ろうとするものである。あまりの強引なやり方に対し、憤慨せずにはいられなかった。

●寄らば大樹の陰

 条例は、議員の9割が賛成し、廃止されてしまった。今回の廃止に反対した議員は5人のみ。生活者ネットワーク2名、みんなの党1名、創新党1名、無所属(堀部)1名である。
 制定時(平成15年)、条例に賛成した議員で、今回の廃止に反対した議員は、なんと私だけであった。
 しかし、条例制定から7年。その権限に特段の法改正はなく、区長一人のところに数多くの権限が集中している状況に変化はない。
 なぜ、それで廃止できるのか。区長が交代すると「寄らば大樹の陰」で、立場を豹変させる議員がいるのは何故なのか。改めて区長交代の影響(権力の絶大さ)を実感させられている。

●議員は政策本位で活動を

 区長選の直後、区議会内で、すぐに民主党・自民党・社民党による統一会派(大連立)が結成された。区長選で激しく対立していた人々であったにもかかわらず、何があるのかと思えば、結局「大政翼賛会」だったのである。
 しかし、区長が交代する度に右顧左眄し、折々の区長の言いなりになるだけであれば、議員の存在意義はない。区長や役人に鈴を付けるのは議員に課せられた重要な役割である。
 以上のような杉並区政の大変化を直視するにつけ、これからは党派を超え、政策本位で活動する議員を増やす必要があると痛感させられている。もはや前区長時代とは全く状況が異なる。

 条例は廃止されてしまったが、今後、何らかの形で代替策を考えていく必要がある。検討を深めていきたい。


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