杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし 議員一年生の議会見聞録(その3) 1999



こんなことでいいの? 行政の特別職人事

         ●区長が提案した驚きの人事  都知事との違いは?!
  目次
  前触れなき人事提案
  笑ってしまった区長の推薦演説
  なんのことはない順送り人事・石原都知事との違い
  監査できっこない人が監査役に!
  議会も圧倒的多数でこれを承認
    これでは、行政と議会が癒着していることを天下に公言しているようなもの



 前触れなき人事提案


 第2回定例会の最終日。事前に何の前触れもなく、突然、議場で区幹部の人事(助役・収入役・教育長・代表監査委員)の話が出てきた。議会の承認がほしいというのである。

 これらは、民間企業でいえば重役クラスに相当する重要なポストである。しかも、議員と同じ特別職扱いといっても、議員とは違い、短い在職期間でも多額の退職金が出るポストばかりである(議員に退職金はない)。

 区長や議員の選出(選挙)に時間がかかるのと同じように、彼らの選定についても、その職責を考えれば、そう簡単に決定できるものではない。だから、事前に提示もないのに、いきなり採決をとるのは、まったく理解できないことだった。

 もちろん、この人事案は、本会議の前に、しっかりと根回しされていたようである。もっとも、実際に根回しがあるのは、根回しや裏取引がきく会派(交渉会派)だけである。

 根回しのきかない無党派の私に、事前の打診などしてやらない、ということなのかもしれない。世間の常識を議会に持ち込もうと無党派で活動していると、こんなところでも、意地悪をされてしまうのである。
 


笑ってしまった区長の推薦演説

 
 ところで、人事を提案する際には、区長が推薦演説を行うことになっている。

 なるほど、元国会議員ともなると、たいした役者である。まだ就任まもない区長が、幹部に推薦する人たちのことを「人格高潔」だとか「誠実な人柄」だとか、よく知りもしないはずなのに真顔で次々とベタ誉めするのだ。

 私は怒りを通り越して、思わず笑ってしまった。どうして区長就任たった2ヶ月弱で、さして親しいわけでもない役人たちの詳しい人格まで判るのだろうか?

 このように、明らかにウソとわかる演説をも、真剣に行わなければならないのが、区長という地位のようである。さぞかし苦痛な役回りだろう。ひょっとすると、国会議員の時より心労が多いのではないだろうか? 

 新聞報道によれば、区長は、とある勉強会で、「私は本当にこのポジションに就きたいと思っていなかった」と発言したそうで、当選証書を区長室に掲げて自己を奮い立たせているのだそうだ。

 だとしたら、本当にイヤでイヤでたまらない職務だろう。心中お察し申し上げる次第である。



なんのことはない順送り人事・都知事との違い



  さて、マスコミを賑わせてまで、独自の人事にこだわっている都知事とは異なり、新区長が提示してきた人事案は、完全な役所内部の年功序列・順送り人事だった。

 外部の民間人を起用したり、若手を抜擢するということがなかったため、新聞にも、「従来型の年功序列人事に」「風穴を開けられなかった」などと指摘されている。

 現状改革を訴えて当選した新区長が提案したものとは、とても思えない人事だったことは確かである。仕方のないことだったのだろうか?

 いや、それは違う。石原慎太郎都知事も、人事では相当苦労しているが、それでも、実力本位で人選し、反発を受けながらも、21人抜きの若手大抜擢を実現しているのだ。

 区長に覚悟さえあれば、杉並だって、それぐらいのことはできたはずなのだ。ここ最近で、いちばん大きな問題は何か?と問われれば、私は真っ先にこの問題を挙げたいと思う。

 なにしろ、この問題は、今後4年間、その悪影響が及ぶ大問題なのだ。


監査できっこない人が監査役に!


 とくに、代表監査委員が問題である。

 監査委員の仕事は、行政の公正と能率を確保するため、区長とは独立して区の財務や事業などに関する監査を行うことである。なかでも、代表監査委員は、常勤職であり、とくに識見を有する者から選任することになっている。

 今日のように、行政不信・議会不信が強まっているなかで、代表監査委員は、とりわけ重要なポストだといえる(なお、平成9年度の地方自治法の改正によって、自治体の外部監査制度がスタートしたが、この制度は、不幸にして、まだ杉並には導入されていない)。

 なにより代表監査委員に求められる資質は、その「独立性」である。「なぁなぁ体質」の行政や役人にカツを入れ、充実した監督・検査を行うためには、それ相応の人物が代表監査委員に任命されなければ意味がない。

 ところが、現状改革を公約して当選した新・区長が、代表監査委員に推薦してきたのは、なんと内部の職員(前・生活経済部長)だった。私は、自分の目と耳を疑った。

 これでは、自分の会社の監査役に自分の家族を任命するようなものだ。

 同族会社ならともかく、杉並区は、株主にあたる区民が50万人強・社員にあたる職員が4,000人強・財政規模も2,000億円強という全国第25位の巨大な自治体である(全国には3,200強の市区町村が存在)。こんな「出来レース」のような監査体制で良いわけがない。

 だいたい、役所の内部に顔が利き、内部の掟のなかだけで40年近くも生きてきた者が、常勤の代表監査委員になったとして、果たして役所の内部に厳しい監査を行うことができるものだろうか? もし、それができていれば、お役所はとっくに区民の満足度の場所になっていたハズである。

 こんなことは、少し考えれば、誰にでもわかる理屈だ。このような人事を続けていては、行政への監督・審査が甘くなるのは、当然なのである。



議会も圧倒的多数でこれを承認

 これでは、行政と議会が癒着していることを天下に公言しているようなもの




 新区長が、本当に「時には自らが犠牲になってでも・・・」と現状改革を訴えるのなら(所信表明演説)、ほかの何を妥協し、譲ったとしても、これだけは絶対に譲れないはずなのだが・・・

 ひょっとすると、新聞報道にあるように、本当に「早くも方針転換」したのだろうか?

 なお、議会では、私のほかごく一部の議員がこれに反対しただけで、圧倒的な多数(自民・公明・民主・杉並フロンティア・生活者ネットなど)の賛成で、この人事が承認されてしまった。まったく信じられないことである。これでは、行政と議会が癒着していることを天下に公言しているようなものだ。

 今回任命された区の幹部の任期は、4年間である。彼ら任せでは区は絶対変わらないことだろう。

 区の矛盾を広く伝えていく必要性を改めて感じている。なんといっても、区の広報は、いわば「大本営発表」。私はこれからも生活者(区民)の立場に立って情報提供していきます!





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