杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2002

行政トップの多選制限を考える

〜杉並区 区長の多選を制約する条例案を提出へ〜


 山田区長は、杉並区長の多選を制約する条例案を議会に提出する方針を発表しました。

 内容は、区長は通算3期を超えて在任することのないよう努めるというもの。正式には11月の定例議会に提案されます。なお、成立すれば、日本初のことになります。

 この問題については、実現が模索されながらも、憲法や法律の制約から、なかなか地方レベルでは問題提起しにくかった背景もあり、日本の政界に一石を投じることになりそうです。審議の過程を通じて、今後の政治改革の糸口を見出すことができればと願っています。

 かつて秋田県知事は断念
 かつて秋田県で、知事の選挙公約に基づいて、知事の多選禁止条例の制定が検討されたことがありました。1997(平成9)年のことです。

  この動きに対し、当時の自治省は、憲法上疑義があるといった見解を示してきたため、条例案の提出は見送られてきました。

 選挙に立候補すること(被選挙権)が、基本的人権の一つである以上、憲法や地方自治法、公職選挙法を変えなければ、条例化することはできないと判断し、断念したわけです。

 その後、前向きにとらえる動きが
 しかし、時代は変わってきました。

 各地でも首長や役人が関与する入札談合(官製談合)が報道されることが多くなり、知事・市町村長の独裁的な権限のあり方に関心が寄せられるようになってきました。

 知事や市町村長は、一議員とは異なって一人しかいない「大統領」であるため、抑制が働きにくいことが明確に「課題」として位置づけられるようになってきたといえるでしょう。

 自治省の「首長の多選見直し問題調査研究会」(座長・大沢秀介慶大教授)は、地方自治体の首長の多選問題について、多選禁止が憲法上許される可能性があり、国民の間で十分な論議が必要だとする報告書をまとめています。1999(平成11年)年のことです。

 実際の司法判断があるわけではありませんので、違憲・違法の疑いが晴れたわけではありませんが、少なくとも議論できる土壌が整ってきたとはいえるでしょう。

 その意味で、今回、山田区長が、あえて区長の任期に関する条例(多選自粛条例)案を提出するというのも、時代や世論を反映していると思います。他の議会の模範となるよう、公聴会の開催や参考人招致を実施し、大いに議論したいものです。

 政府の見解は
 しかし、国会審議によると、多選制限を条例で自由に定めることはできないとの政府答弁もあり、実はまだまだ微妙な問題といえます(→詳しくは、以下に掲載する国会議事録の抜粋へ)。最近でも、川崎市長が多選制限の条例をつくると標榜してはいましたが、まだそのままになっています。

 理念は正しくとも、「法の支配」の原則を考えたとき、理想と現実の間で実に難しい判断を迫られることは間違いありません。 どんなに理想が正しくとも、憲法や法律に反する条例をつくるわけにはいかないわけです。

 憲法94条は、「地方公共団体は・・・法律の範囲内で条例を制定することができる」とあります。

 だからこそ、明らかに多選を禁止するような条例では、憲法や法律を逸脱してしまう可能性が高いため、区長は多選を自粛する内容の条例をまとめたといえます。

 しかし、自粛を求める内容とはいえ、行動を制約したり、選択肢を奪う結果を招くことは変わらないとの見方もあります。また、現在の区長が将来の区長の任期の制約する(有権者の選択の自由を制約する)ことの是非は、さまざま異論も出ています。

 以下、「多選制限の論点」を整理しておきます。課題や論点をよく踏まえたうえで、決断していきたいと思っていますので、ご意見をお寄せいただければ幸いです。

 論点を整理すると

 メリットは明確。とくに、国レベルで多選を制約する法律を制定するなら、何の問題もないと思います。


●なかでも最大の利点は、一人の知事・首長による独裁を防止することができるようになることで、人事の偏向など行政の硬直化を防止することができることでしょう。


  1. 知事・首長は、たった一人で絶大な権限(人事権・予算編成権・許認可権など)をもっているが、多選を制限していくことで、長期にわたる独裁的な政治傾向を防止することができる。 

  2. 長期政権を防止することで、地元業者などと長期にわたる癒着が起こらないよう、一定の歯止めをかけることができる。


●ただし、検討のうえ、一定の見解を出していかなければならない論点としては、 


  1. 憲法や法律に違反している疑いがあり、違憲・違法を問われかねないのではないか(法律の範囲内でしか条例を制定することができない現実をどう判断するか)。

    →立候補の自由は、憲法その他地方自治法、公職選挙法に保障されているので、問題視される可能性も。なお、実際には条例の存在とは無関係に立候補することは可能。

  2. 多選自粛を決めても、絶大な権力を持つ前任者が後継者や2世をつくって院政を敷けば、トップの顔が変わるだけで実態は同じでは? オール与党で相乗り推薦するような候補者しか立候補してこないのでは、実際には何も変わらないのではないか

  3. かりに前任者が非常に優秀なリーダーであった場合、任期制限が逆効果となる場合もあるが、どう判断するのか。
    →任期制限の結果、かえって政治がおかしくなり、混乱してしまった国もあるが・・・

  4. 現在の知事・首長が、一方的に将来の知事・首長の任期を制約するルールをつくるのは、それこそ現在の知事・首長等の独断専横的な判断ではないか。
    →後世の有権者の「選択の自由」を奪うことになってしまうのではないか。

  5. 多選はダメなのに、半ば談合的に成立している無投票当選を良いままにするというのは、無理があるのではないか。(近年でも中野区などで無投票当選の例があるため)

  6. 明らかに問題のある候補者については、その都度、有権者自身が選挙での投票やリコール等で意思を示すべきことではないか。一律に線引きをするのは悪平等ではないか。
    →日本ではトップの交代が激しいが、それにも弊害があり、単純な線引きはどうか。


  7. むしろ低投票率や政治参加のしにくさを変えることが重要なのであって(投票制度のあり方やリコールなど直接請求のあり方等々)、それをまず先決すべきではないか。

 参考資料:国会の議事録より

 参考までに、以下に知事・首長の多選禁止に関する国会の質疑・答弁を抜粋しておきます。

 1.衆議院・総務委員会(2001/11/27)
 2.衆議院・行政改革に関する特別委員会(1999/06/02)

1.衆議院・総務委員会(2001/11/27)
○大出委員
  (前略) いわゆる首長さんの多選禁止条例というのは制定できないのでしょうか。

○山名大臣政務官
  この問題につきましては、いわゆる公職選挙法で被選挙権の要件について定めておりまして、いわゆる多選について禁止する規定は設けてはいないわけであります。

 多選禁止というのは被選挙権の制限ということになるわけでありまして、現行法で首長の多選を禁止する規定を設けていない、こういうところでありまして、条例によって多選を禁止する規定を設けることはできない、このように認識をしております。

○大出委員
  何かで見たところ、総務省の方の意見として、当時の自治省でしょうか、できないではなくて、効力がないというようなことを言っているようなのですが、その辺、どうでしょうか。できないとおっしゃったのですが、つくっても効力がないという意味で、できないということですか。

○山名大臣政務官
  当然、公職選挙法上の整合性との問題がありますので、そういった条例をつくったとしても、やはりそういった意味での効力についてはいささか疑問があるのではないかと思っております。

2.衆議院・行政改革に関する特別委員会(1999/06/02)
○岩國委員
  (前略) この多選禁止について、大臣の御所見をお伺いしたいと思います。

○野田(毅)国務大臣
  多選禁止、現在の法律制度では、御承知のとおり、これは公職選挙法第十条それから第十一条で、衆議院議員、参議院議員それから都道府県議会の議員、都道府県知事、市町村の議会の議員、市町村長についての被選挙権についても規定をいたしておるわけです。
 これは、年齢要件そのほか、禁治産者等々、刑を云々とか、こういうことを規定しているわけです。そういう意味で、条例においてこれを自由に定めるということはできないという仕組みに今はなっております。
 そこで、では公選法を改正して多選禁止を、つまり多選禁止というのは被選挙権の制限ですから、公選法を改正して被選挙権の制限を条例にゆだねることができるのかどうかということについては、これは一つの視点だろうと思います。
 これは率直に申し上げてなかなか難しい問題がありまして、独裁政治がいいのかどうかという、これはプラトンの哲人政治が理想だと言う政治学者もある。
 しかし、人類の長年の知恵の中で、やはり権力は腐敗を生む、そういう中から代表民主制という形が生まれてきたというようなこともあり、多選というものがなぜ論議されるか、それは、各国において多選禁止が行われているのは、まさにそういったことが背景になっているのだろう。
 ただ、今日、白地に絵をかくという現実ではございませんで、血の通った人間が現に該当する人もあるという事態の中でこれをどう取り扱うかということでありまして、論理と同時に、実に政治的な世界でもあるわけであります。
 そういった点で、この点については、各党それぞれいろいろ問題意識もお持ちでございますから、そういう意味で、政治レベルというとなんですが、各党間でこの問題についてさらに詰めた御議論をいただくなら大変ありがたいというふうに考えております。

(中略)

○岩國委員
  先ほどの答弁の中で、そうした多選禁止を各自治体の条例で決めるということについては、法的に問題があるという御答弁だったと思いますけれども、しかし、統一地方選挙、この四月に行われました。
 全国のいろいろなところで、多選禁止を掲げて、当選したりあるいは当選できなかった方もありますけれども、自分が市長になったら、区長になったらそういう条例をつくりますと。
 そしてその中には自民党の推薦もあれば民主党の推薦の候補者もあります。
 これは自治省として、できもしないことを公約として掲げさせたということについてはどういうふうにお考えになりますか。

○野田(毅)国務大臣
  候補者がどういうことを公約に掲げるか、その内容について一々自治省がこれはいいとか悪いとか言うわけにまいりません。
 そこは住民自身が、その実現可能性はどうなのか、あるいはそれが自分の権限の範囲でなくて、国の事柄であったとしても、あえてそれを国に働きかけて、自分の公約を実現するような努力をされるのかされないのか、さまざまな後の対応の仕方があろうかと思います。

○岩國委員
  そのために選挙管理委員会があるんじゃないですか。選挙管理委員会に選挙公報というものをちゃんと出して、そこで内容的にもいろいろ審査されるわけでしょう。
 これが公序良俗に反するとかいろいろな問題があるとか、できもしないことを掲げて、これは無知な有権者を結局だます結果になるんじゃないかとかいうおそれについては、それをチェックするのが選挙管理委員会の仕事でしょう。
 今、大臣のおっしゃったように、できもしないことでも、できるかできないかは有権者が判断されるからそれで結構ですというのは、私は、余りにも有権者の知識レベルを高く評価し過ぎていると思うのです。
 例えば市役所の助役をした人がそれを掲げていれば、ああ、あの助役さん、三十年も役所の中におって立派な仕事をされた人、そういう人が掲げていらっしゃるんだから当然これはできるものだ、法的には問題がないものだと一般の人は思い込んでしまいますよ。それが一般の知識じゃありませんか。
 それを選挙管理委員会で、あるいはどこかの、自治省の方からのある程度の警告なり、注意なり、指導なり、できもしない条例をできるかのように各選挙民に訴えることについては問題がありますよぐらいのことは、一言おっしゃったらどうですか。

○野田(毅)国務大臣
  選管がチェックをするとか、地方自治体の首長さんなり議会の議員の方々の具体的な個別の公約に関連して自治省が口を挟むということは、私は逆に、厳に慎むべきことであると考えております。
 それは、国会議員の選挙における公約において、では、中央選管がくちばしを入れていいかということになるわけでございます。
 ですから、私は、やはり選挙に関しては、厳に自治省としては、地方自治体自身の、住民の選択にゆだねるべきことが基本であるというふうに考えております。

○高鳥委員長
  岩國君、時間が来ておりますので。
※なお、杉並区議会におけるその後の審議経過などについては、こちら

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