杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線 2001年12月〜
検証「レジ袋税」条例(2)
2.山田区長の「選挙対策」でスタートを先送りする可能性が濃厚に

   一般生活者向けの税で、実施時期を全く不明している税条例は、本邦初
    実施時期をまるで明示しないのは、租税法定主義(憲法87条)に反するのでは?

   その理由は、前回の選挙で苦戦した山田区長の選挙対策だった・・・
※全6回シリーズの第2回。審議を受けて随時内容を更新します。
なお、総目次は、こちら

区長は、本心からやる気があるのか?


 「レジ袋税」条例(区長案)には、いつまでに税を実施するか何も書いていませんし、実際、区も、いつから課税するか未定だと説明しています。

 しかし、広く一般生活者を課税対象にした税で、スタート時期が全く未定のまま議会に可否を求めるのは、前代未聞のことです。

 これは、山田区長の選挙事情で実施を延期したいという意図から、実施時期をあえて条例で定めたくなかったということなのです・・・・

 最近の動きを見るかぎり、山田区長は、本心から「レジ袋税」を実施する気はないとしか思えないのです。


実施時期は、ハッキリ明言するべきだ


 可能でしたら、六法を見てみてください。税に関する法律は、みな「この法律は、平成××年×月×日から施行する」と具体的に書かれています。

 国会では「施行時期は規則で定める」などと、役人が勝手に実施時期を決められるようないい加減な税法は、ダブーとなってきたのです(「規則」とは、議会の許可なく、役人の「裁量」で決めることのできるルールのことです)。

 租税法定主義(憲法87条)の趣旨に沿って考えれば、当然のことです。これは地方議会でも同じことではないでしょうか。

 なんのことはない、実際に課税をいつ実施するか(しないか)は、「役人の裁量で後で判断させてもらう」ということなのですが、これは民主主義のルールに反することで、厳密に言えば、憲法違反の疑いすらあります。


 税の場合は、憲法第87条に「租税法定主義」が定められています。これは、課税要件や徴税手続等は、すべて法律(条例)をもって定めることを必要とすること、また、租税法規はその意義をできる限り明確に規定するよう要請されている憲法の規定です。

 要は、国民の代表である議員が定める法律や条例に基づかないで、自分勝手な税をスタートさせることはできないという当たり前のルールが、「租税法定主義」です。

 とくに「税」に関する議会審議の場合は、曖昧な部分を極力残さないことが重要。また、役人が勝手に定めることのできる規則や要綱に何でも委任せず、議会でしっかり審議し、役人が勝手な運用をしないよう歯止めをかけていくことは、議会の大事な役割だと思います。

 なお、イギリスで議会制民主主義を誕生したのは、戦費調達=課税問題が端緒でした。健全な民主主義が未発達だった時代ですら、国王は議会に諮って課税を行うよう約束させられていたのであり、これが以後の民主主義の模範となってきたはずです。


 勝手に「課税の無期延期」を決めるな!


 このように、一般の税法は、みな実施期限を含めて、国会の承認を得ています。民主主義の原則からすれば、「租税法定主義」は、そう解釈すべきものだと考えます。

 レジ袋税について、区は「かりに条例ができたとしても、当面は実施を先送りする」と言っているのですが(後述)、以上のような理由から、「税」の場合、それは許されないことです。役人の勝手な裁量を認めるような立法(条例)は、認められません。

 原則を踏まえていえば、周知期間・準備期間を考えたとしても、可決した条例(法律)は、3ヶ月後(最大でも半年〜1年後)にはスタートさせるべきものです。

 議会を通過した税法は、役人の裁量で勝手に実施を延期できないと見るのが当然です。延期する場合は、改めて議会に諮るべきなのです。

 とくに「税」の場合は、法定主義の原則もあるのですから、あくまで実施する時期にあわせて条例を可決させるのが本筋であって、実施する気のない税(条例)をパフォーマンスで形だけ通すというのでは、ルールも何もなくなってしまいます。

 これでは法治主義は否定されたも同然です。日本は、王政でも、軍政でもなく、法治国家(法に基づいて行政運営を行う国)です。災害有事を除き、不自然な立法(条例化)は、厳に慎むべきです。


実施時期を定めないのは、「選挙対策」


 これに対し、区から勘違いも甚だしい反論が返ってきました。

 最近、各地で導入されている独自の地方税(法定外税)は、どれも条例ではなく「規則」で実施時期を定めるとしているので、区長案でも問題ない・・・というのです。河口湖町などで実施された「遊漁税」や東京都の「ホテル税」が、実施時期を「規則」で定めるとしたことから、これを肯定してもいいのではないかという意見です。

 しかし、河口湖の遊漁税は、条例が議会で可決された後、総務省の同意が得られれば、すみやかに課税をスタートさせることになっていました。

 また、ホテル税の場合も、条例に「実施はワールドカップ後」とする議会の付帯決議がつけられ、実施時期が明示されています。

 つまり、どちらのケースの場合も、実施時期が全く不明というわけではなかったのです(実際に、遊漁税も、総務省の同意後、3ヶ月の周知期間を経て、すぐに施行しています。なお、ホテル税は、まだ可決したばかりですのでわかりませんが、都議会で時期についても議決していますので、おそらくその通りに実施されることでしょう)。

 これに対し、レジ袋税の場合は、実施時期が全く未定。後述しますが、「少なくとも1年間は様子をみて実施しない」と言ったものの、商店会連合会との取引の場(総会)では「2003年春まで延期」というような言葉が具体的に飛び出しており、さらに延期できるような言い訳も明らかになっています(後述)。

 結局、2003年春に区長選があるというので、区長案は意図的にスタート時期を不明確したとしか思えないのです(→これも、この話題の詳細は、条例の論点4で解説)。


立身出世の道具にしてもよいが、真面目にやるべきだ


 11月30日の毎日新聞は、「今議会への提案を急いだ背景には、昨年9月の構想発表から1年がたち「形』にしなければとの焦りが区長にあったと指摘する声もある」と書いています。

 山田区長は、元・衆議院議員。まだ40代前半であることから、いつまでも区長に留まっている気はないそうです。

 このため、都内全域や全国に実績をアピールしたくてたまらない・・・という見方をよく耳にします。(なお、「任期は3期12年まで」と公言しているところです)。

 ただ、それは個人的なことですし、問題にするつもりはありません。区長のメンツから条例案が提出されたとしても、結果として、それが上手くいき、ちゃんと実施されるなら、問題ないことだと思います。

 しかし、レジ袋税の実施に抵抗する勢力への配慮(区長の選挙対策?)から、あえて実施時期を定めなかった(実施の先送りを決めた)のは、さすがに納得できるものではありません。そのようないい加減なことでは困ります。

 区長に本当にやる気があるなら、実施できることです。日本の知事や区長は、条例案を出す権限もあれば、議会を解散する権限も、議会の決定に対する拒否権(再議権)もあります。権力としては、アメリカの大統領よりも強い決定権を持っている存在なのです。
  • なお、アメリカの大統領には、法案提出権も、解散権もありません。

 なお、詳しくは後述しますが、レジ袋税の実施は先送りしても、商店街への補助金だけは先にスタートさせるという話になっています。区は増収になるどころか、むしろ「税金の持ち出し」をすることになるのです。(→この話題も、詳細は、条例の論点4へ)。

 このため、スタート時期については、できるだけ議会の段階で明確にしておく必要があると考えます。

 ○月×日と明確にできない場合も、せめて「公布後、総務省の同意が得られた日から一年を超えない範囲内に実施」といったような条文に修正させるなど、租税法定主義の趣旨に沿った条文にしなければならないと考えます。

 国でも政治主導が進んでいます。これが「税」である以上、役人の裁量をいたずらに拡大させる「悪しき前例」をつくるべきではないと考えます。


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