杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2001

学校給食調理を考える (全4回シリーズ・その3)
必ずしも常識ではない給食の提供

 学校給食調理を考える(その1)・(その2)のつづきです。

 高福祉で有名な武蔵野市で完全給食がないのは、なぜなのでしょうか・・・?

 民間活用へ

 3月の議会で、今後杉並区でも給食調理は民間人にお願いしていく方針が正式に決まりました。今後は、給食調理員の新規採用は行わず、その分は民間人にお願いすることになります。

 ただ、これは「業者丸投げ」とは異なります。栄養士は区の職員のままですし、メニューなど区が責任をもちます(なお、区は4月より3校で民間活用をスタートする方針を打ち出していましたが、ついに職員組合と条件面で合意に達することができず、その後、実施は9月に延期されました→後述)。

 ところで、民間活用は、すでに各地で実施されています(下表参照)。地方においては、依頼できる業者がなかなか存在しないため、必ずしも民間活用は多くありませんが、その反面、地方では最初から自校調理を実施せず、センター方式(給食センターによる共同調理方式)を導入している場合が多くなっています。(その意味では、むしろ古くから合理化を行っていると言うことができるかもしれません)

 ただ、「センター方式」は、学校における教育効果を考えても、あまり好ましい方法とは言えません。その点、杉並の場合、自校調理方式を維持しつつ民間に委ねられる環境にあったことは、むしろ幸せなことだと思います。

.◆参考◆ 学校給食で民間調理をスタートした年(東京23区)
足立区・台東区 昭和61(1986)年度  (現在では全校で民間活用)
墨田区 平成元(1989)年度
大田区・荒川区 平成8(1996)年度
豊島区・板橋区 平成9(1997)年度
北区・中野区・江東区 平成10(1998)年度
目黒区 平成11(1999)年度
文京区・世田谷区 平成12(2000)年度
※このほか、品川区のように、学校は現状のままでも、保育園の給食を先に民間に委ねている例もあります。

 給食を実施していない地域もある

 杉並では、今後も「自校調理方式」を維持し、財政難でも学校給食を維持するために民間を活用することになったわけですが、組織基盤を脅かされる組合関係者からの反発は強く、強硬な反対運動も起こりました。

 なかには、今回の件が職業安定法等に違反しているとする主張まで出てきたくらいです(※さすがに違法性があっては問題ですので、私も調査してみましたが、すでに民間活用が進んでいる各地において、その違法性が指摘された判例等は全く存在しませんでした)。

 このように、民間人に調理業務を民間に委ねるだけでも、あの手この手で反対運動が起こり、さまざま異論が出されたわけですが・・・その際、学校給食すらない地域が未だにたくさん存在しているということについて全く話題にならなかったのは意外なことでした。

 実際、この財政難でも給食を維持するということは、本当にたいへんなことです。杉並の区立小中学校における調理経費も、年間22億円にも及んでいます(健康学園分除く)。

 自校調理方式では、各校に設備がありますので、設備投資もかなりの負担になっています。実際に給食がない地域や学校がある中でも、杉並区が給食を維持しようとしていることは、もっと評価されてしかるべきだと思うのです。


 高福祉で有名な武蔵野市で完全給食を実施していないのは・・・

 杉並(を含む東京23区)では、学校給食はかなり重要視され、格別に予算が組まれてきたといえると思います。

 東京23区では、当然の権利であるかのように食べている学校給食ですが、これは決して全国一律のものではないのです。「そもそも学校給食がない」あるいは「ミルクしか配られていない」などといった地域は、まだたくさん存在するのです。

 実際に、杉並の隣の武蔵野市の中学校では、ミルクのみの支給です。道路一本挟んだ向こう側には、完全給食がないのです。武蔵野市の土屋市長は、介護など福祉サービスに力を入れていることで有名ですが・・・それは学校で完全給食を実施しないことで余剰を生み出し、他のサービスの向上に予算を充てているだけのことなのです。

 このほかにも三多摩地域では、完全給食を実施していない地域が数多くありますし、大阪や京都でも、大半の中学校で給食が実施されていません。当たり前のようになっている給食も、実は「政策判断」で行われていたものなのです。


 なぜ、学校給食を維持する努力が評価されない?

 このように、財政難でも、今後も学校給食を維持していくために努力しようという姿勢は全く評価されず、民間活用ばかりを批判するのは、どうかと思います。実際の保護者が負担する給食費は低く抑えられていますが、もし、税金補填がなくなれば、給食費は月に万を超えてしまうのです。

 たとえば、実際、いま提供されているような栄養価が高く、美味しいランチを民間で食べようと思えば、一ヶ月2万円は下らないでしょう。それがわずか月4千円程度で食べられるのは、税で補填しているからです(一方で、政策的な判断から完全給食を実施せず、その分を他の福祉施策にまわしている地域があるのは、前述したとおりです)。

 学校給食の充実については、かなりの予算を投入してきました。最近でも、(1)ランチルームの整備、(2)ドライシステムの整備、(3)環境ホルモン対策=強化磁器食器の導入、(4)食物アレルギー対応=対応組織・体制の整備、(5)バイキング給食など「多様化給食」の実施・・・など充実するようになりました。

 しかし、これ以上、公共財政が厳しくなれば、それも維持できなくなることでしょう。しかし、「廃止は困る」という意見が根強いからこそ、なんとか維持できるよう、民間を活用していこうというのが、今回の改革の主旨なのですが・・・


 民間調理に反対するなら、
 長期的な財政運営や対案を出すべきでは?

 戦後、学校給食によって、子どもたちには栄養価の高い食事を提供することができるようになりました。

 しかし、その一方で時代が変わり、生活が豊かになる中で「味覚が形成される時期に子どもの味覚がみな同じになってしまう」「食は家庭の責任ではないか」「ひとりぐらし高齢者の食のほうが深刻だ」とする学校給食廃止論もあります。子どもの声の中にも、「給食はなくていい」「給食より学校をキレイにしてよ」というものが実際にあります。

 その一方で、世帯の高齢化や核家族化の進行もさることながら、日本も男女共同参画社会となり、現在では、多くの保護者にとって、給食の存在が「家事と職業との両立」の大きな助けとなっているのも現実です。手抜きとの批判もありますが・・・。

 ただ、いまは失業者も多いですが、今後は少子化で確実に労働力人口が減っていきます。このため将来的には定年が伸びたり、主婦という職業が縮小せざるを得なくなるでしょうが、それでも一時的には労働者が足りず、移民を受け入れざるを得ない状況になるかもしれません(実際、このご時世ですら、3K職場は求人が絶えず、外国の方がたくさん働いています)。

 給食の存在が、将来の一時的な労働者不足を補えるほどの効果があるとは思えませんが、「されど給食」であり、ここが実に難しいところです。今日では昔のように家事の担い手としての兄弟姉妹の数も少なく、大家族もほとんど存在しなくなっているわけで、問題はそう簡単な話ではない以上、かりに廃止を検討するにしても、十分な議論が必要でしょう。

 実際には、学校給食存続のニーズが強いからこそ、今後も給食を維持するために必死に努力して効率化を図っているのです。民間活用に反対するなら、財政運営も含めて、現実的な対案を出すべきでしょう。

 その4へつづく
  学校給食調理を考える (その1) 学校給食の実態を検証する
                 (その2) 談合の温床・参入規制は撤廃すべきだ
                 (その4) 9月から区内3校で民間調理を実施

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