杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2001

学校給食調理を考える (全4回シリーズ・その2)
談合の温床・参入規制は撤廃すべきだ

  学校給食調理を考える(その1)のつづきです。
 学校給食は、NPOを活用できないか?

 前回(その1)で確認したように、現在の学校給食の運営に問題があることは間違いありません。しかし、新しい政策を実行するにあたっては、どんな問題であっても不安がつきものであり、これをどう解消していくかが問題となってきました。

 教職員組合や保護者からは、営利企業に任せると、営利を追求するあまり手抜き調理するのではないか・・・と相次いで不安の声が寄せられました。そこで、私は、学校給食についてもNPOを育成し、活用できないか・・・と考えてきました。「民間活力」というときに、営利企業だけに依頼するという方向ではなくて、同じ民間でも、営利を主目的としないNPO(利益の株主分配を行わない形態の組織)に仕事を委ねる。こういう形なら、不安が解消され、納得する方も増えるのでは・・・と考えてきました。

 実際、すでに区でも介護サービスの提供にNPOを育成・活用している実績があります。身体の不自由な方を相手にする介護で実績があるものを、一日わずか一食しかつくらない学校給食で導入できないはずはありません。これならば、反対キャンペーンに惑わされて不安・混乱している保護者の方々も説得できるのでは・・・と考え、学校給食もNPOを育成する中で仕事を委ねることができたら・・・と、議会でも検討を促したものでした。

 しかし、前例が少ないだけに、これは今後の課題となってしまいました。それにしても、介護事業ならNPOがOKで、学校給食はダメというのは、理屈に合わないことです。介護保険を導入する前、期せずして介護NPOが続々と誕生したのは、記憶に新しいところです。しかも、給食の場合、全校の調理業務を一気にすべて民間に委ねるわけではないため(退職者が発生した分のみ民間活用)、少しずつNPOを育成しながら依頼することは、そう非現実的な話ではないはずなのです。

※なお、ワーカーズコレクティヴへの依頼でもよいかと思いますが、残念ながら、日本においてワーカーズコレクティヴは法制化された存在ではないこともあり、現時点での依頼にあたっては、NPO(法人)が適切かと思います。


 地域が学校給食を運営した例も

 足立区では、給食調理の民間活用が問題になった際、商店街が共同体をつくって、学校給食を請け負った例があるといいます。

 話によれば、学校で調理業務を民間に委ねるという話を聞いたけれど、自分たちの子どもの学校給食は、知らない人じゃなくて、親をはじめ地域の自分たちの力でつくってあげたい・・・訳の分からない企業にやられるくらいなら、自分たちが一肌脱ごう・・・と、そんな感じで始まったようです。

 この当時は、NPO法もなかったこともあるでしょうし、いちおう会社組織という形にはされたそうですが、いわばNPO的な感じで、地域が学校運営に協力した好例だと思います。こうしたことが地域と協働して学校をつくるということだと思うわけですが・・・ただ、残念ながら、この間、杉並区ではこのような申し出は、どこからも出てきませんでした(下町との差でしょうか?)。


介護サービスにはNPOも参入しているのに・・・

 もっとも、区はハナからNPOへの依頼を念頭においていなかったこともありましたので、それも仕方ないことかもしれません。区は、依頼にあたって、「給食事業者としての実績」を重視したため、NPOという選択肢を除外する方針を打ち出していたのです。

 しかし、今回考えられていた業務は、あくまで区の定めた「仕様書」に忠実に調理業務だけをこなすのが仕事。食材購入もメニューの作成も、区が行うことになっています。栄養士は、あくまで区の職員で、その最終責任も区が負うことになります。

 これで、どうしてNPOにこなせないというのでしょうか?区の提示する「仕様書」どおりに調理をすることが、それほど困難を極めて、給食業者以外にできない仕事なのでしょうか?経験豊富な調理師がいたり、NPO法人格を取得するような真面目でヤル気のあるところなら、給食調理を委ねても差し支えないのではないでしょうか。

 繰り返しになりますが、身体の不自由な方を相手にし、命をかけてサービスを提供している介護サービスにおいて、区はNPO活用の実績があります。それが学校給食になると、一部の業者だけにしか参入させないというのは、かなり無理のある話です。このような恣意的な参入規制は疑問です。


NPOの活用という
「21世紀ビジョン」の理念はどこに消えた?

 このように、NPOの育成・活用という方法は、「営利企業だから不安」という論理で反対している方々にも、ある程度妥協していただけるのではないかと思いましたが、その後も、区は、あくまで「参入規制」を緩和しない方針をとり続けました。

 NPOの活用は、最近の区の計画や、21世紀ビジョン(杉並区の基本構想)などでも、強く訴えられていた点なのですが・・・非常に残念なことです。

 公務員による直営事業は改善(公務員の数を減らす)必要があるが、しかし、NPOは実際の選択肢から外された・・・というなら、多くの区市で実施しているように、民間企業にお願いするしか方法はありません。


 民間を活用しても安くならない??

 さて、このような検討を進めるうち、教職員組合などから、「民間は安くないキャンペーン」が起こるようになりました。その主張は、すでに民間調理が行われている地域では年々経費(契約価格)がつり上がっている・・・という主張でした。

 民間業者は営利を追求するので、学校給食が金儲けの手段となり、民間を活用をしても、決して安くはならないという主張でした。民間は役所と違い、営利を出す必要もあれば、税金も払う必要があるので、安くなるわけがないとの理屈のようです。

 なるほど、他の役所の事例を見てみると、たしかに経費(契約価格)が上がっているものがあります。ここから「安くない」とか「給食産業の陰謀」「もうけ主義」という話が出てきたわけですが、私が調査したところ、話はそう単純ではありませんでした。さて、実態はどうだったのでしょうか?


 改善すべきは、「参入規制の緩和」と「一般競争入札の導入」

  調査の結果、他区で給食経費が上昇した原因は、次のような状況によるものと私は考えています。

参入規制の存在  公立の学校給食を請け負った実績・経験のある業者のみ学校給食に参入できるという「参入規制」こそ、経費上昇の最大の原因でしょう。

 その結果、真の価格競争がないため、価格が上がってると思われます(特定の業者による半寡占状態。談合の温床)。とくに社会意識の高いNPOに依頼することすらできないのは問題です。
児童生徒数の減少  児童・生徒数が減少しつづけ、学校規模が縮小しています。このため「規模のメリット」が働かず、一人あたり経費は増える一方。ただ、少子化である以上、これは如何ともし難いことです。

 もっとも、これは自校調理方式を維持する限り、発生しつづける問題。民間活用だけではなくセンター方式(共同調理方式)でもとらない限り、解決しないでしょう(が、センター方式には問題が多すぎます)。

 この意味でも、このまま民間を活用せず、現状を維持すれば、将来さらにコストが高くなってしまうと言えるでしょう。

 以下、詳しく見ていきましょう。


 ■入札・契約のあり方は、これでよいか?

 私は、この問題が表に出るまで、いくらか区の契約のあり方を話題にしたこともありますが、これまで見てきた民間との業務契約事務には、目に余るものもありました。

 たとえば、【1】市場価格と乖離した価格で購入されているもの、【2】見積の根拠を問い質しても、不明なもの(見積書の記載も曖昧なもので済ませている)、【3】区が提示する仕様書の記載が曖昧なもの(提示している仕様書と現物に差異がある)といった具合です。

 また、契約そのものについても、一般競争入札ではなく、指名競争入札や随意契約が横行しています。これでは経費がつり上がるのも無理もない話で、私は区においても、横須賀市で行われているような先進的な入札改革を紹介し、早期に実現するよう強く求めているところです。


 ■参入規制はこれでいいか?

 経費がどんどんつり上がっていった区が、いったいいくつあるのか、正確には把握していませんが、給食についても、概して限られた業者による寡占状態となっています。

 一言でいえば、これが経費を高止まりさせている最大の原因でしょう。だいたい私立のみの経験ではダメ、NPOに依頼することすらダメというのは甚だしい規制であり、談合を容認しているようなものです。

 このように、他区で給食経費が年々つり上がっているというのは、新規参入を排除しているからであって、これが改善されれば、そのような傾向は一定程度抑えられるはずです。これは、契約事務や経理の問題であって、民間だから高くなるというのは、論理の飛躍もいいところです。常識的に考えても、常勤公務員(給食調理員)よりも好待遇の民間調理員はいないはずでしょう。



 ■少子化と学校規模の縮小については・・・

 ただ、むしろ、どうにもならない問題は、学校規模の縮小にともなって発生する問題=「一人あたりのコスト」が上がってしまう点でしょう。

 学校給食の武器は、ある程度「規模のメリット」が働くことにありました。しかし、昨今の少子化の影響で、児童・生徒数は、どんどん減っており、「規模のメリット」が働かなくなってきています。区内でも、全学年が単学級(一クラスのみ)という小学校や、新入生が10人程度しかいないような小学校が増え、学校規模が極めて小さくなっています。

 これでは、必然的に、子ども一人あたりの教育コストが高くなっていくのは、やむを得ません。これは民間に委ねようと委ねまいと発生する問題であって、現状ではどうにもならないことです。

 これを解決するには、(1)センター方式(共同調理方式)を導入するか、(2)学校統廃合で規模を拡大させるかしかありませんが・・・ しかし、(1)は、さまざまな事故が発生したことからもわかるように、安全面で支障が出る可能性が高いものです。また、教育効果の面からも、あまり好ましいものではないでしょう。

 また、(2)は、私が言うまでもなく、そうおいそれと実施できるものではありません。反対意見も多いことでしょうから、かりに実施となっても、実現には何年もかかるでしょう。そして、もし、その時期まで直営方式を維持させたままにしておくとなれば、その間に給食職員の新規採用を行う必要に迫られてしまうことでしょう。

 いま、一人の常勤公務員を新規採用すると、生涯年収は3億円になる時代です。まだワークシェアリングが実現できる状況にはない以上、今後、フルタイム勤務の必要のない給食現場において新たな公務員を雇うのは、そろそろ止めなければなりません。

 民間にできることは民間に委ねるとともに、談合の温床となる参入規制を見直すことで、指摘されている問題は緩和されていくはずです。


 公務員の生涯年収は3億円にも

 このように、「民間はもうけ主義だから価格がつり上がる」とか、「民間ではかえってコストが高くなる」などという批判が、いかに一面的なものの見方であるか、お分かりいただけるかと思います。

 前回指摘したように、フルタイム公務員の人件費は高く、民間とは歴然とした差があります。しかも、公務員は、法律的にガッチリ身分を守られている以上、一気に民間並みの待遇に抑えることは不可能になっています。

 給食調理だけのために公務員を新規採用しつづければ、現状では一人あたり3億円もの生涯賃金を払う羽目になるのです。子や孫の世代は、果たしてそれを望むのでしょうか・・・?調理員の維持よりも、有能な教師や指導者をリクルートする方が、はるかに重要なことではないでしょうか。

 このように考えると、調理は民間に委ねる以外に方法はないというのが実際のところでしょう。この先の財政見通しの悪化から考えて、この課題を先送りすることは適切ではありません。現状では、今後、退職者の不補充や段階的な配置転換を進め、その分の業務を民間人にお願いするしか方法はないと考えます。


 民間病院の給食に栄養がないとでも?

 しかし、従来の経理手法のまま業務契約することは問題です。とくに業務契約する民間企業(指名先)が、半ば固定化されているのは、談合の温床ともなり、価格の高止まりを起こしかねません。コネが実績がなくとも優良なところに参入のチャンスを与えるよう、入札のあり方や参入規制を改善していかなければなりません。

 ただ、残念ながら、今回は、「学校給食の安全性」を理由に、学校給食を提供した「経験」「実績」のある業者に仕事を委ねることになってしまいました。

 これまでの実績や見積を総合的に判断したうえで契約先を選ぶといえば聞こえはよいのですが・・・ちなみに、その「実績」というのは、公立校での実績のみを指します。

 私立校や民間の実績だけでは不可というのですが、公の経験なら良いが民間での経験はダメというのも時代錯誤な話で、とんだ参入規制です。これでは、いつになっても、新しいところは参入できないことになってしまいます。これでは意味がありませんので、今後の課題として、引き続き要請を続けていきたいと思います。

 すでに指摘したように、民間人に委ねるのは調理業務のみなのです。仕様書・メニューは区が作成するうえ、なにより栄養士は区職員のままであり、いわゆる「業者丸投げ」とは全く違うわけですから、過度に恐れることはないはずなのです。この程度の民間活用で「安全性に疑問」「針が入る」などと言い出せば、我々は外食することすら、できなくなってしまうではありませんか・・・

 民間病院では、学校よりも、はるかに厳しい労働環境の中で、アレルギーなど万全な個別対応がとられており、しかも栄養価の確保された給食が提供されています。「学校給食は特別」「民間になると安全性に疑問が出る」と発言した区職員の方もいましたが、そんな発言を民間病院勤務の方が聞いたら、激怒されてしまうのではないでしょうか。


 その3へつづく
   学校給食調理を考える (その1) 学校給食の実態を検証する
                  (その3) 必ずしも常識ではない給食の提供
                  (その4) 9月から区内3校で民間調理を実施

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