杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 11月1 No.73

日産工場跡地の汚染問題(その1)
区の調査結果 結論に残る5つの疑問



 日産自動車は、9月21 日に荻窪工場跡地の土壌・地下水汚染の実態を公表しました。それによれば、敷地内から高濃度の発ガン性物質(トリクロロエチレンやテトラクロロエチレン等)が検出されていました。

 発ガン性物質のトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンは、揮発性が高く、皮膚から容易に吸収されるということもあり、人体への影響を考えると、実に恐ろしいものがあります。

 ところが、驚いたことに、日産は、すでに過去にこの事実を確認していたにもかかわらず、行政への報告を怠っていたというのです。


 工場跡地の一部は、杉並区が買収予定なのですが・・・

 昨年、ようやく日産は、東京都の環境局に対して、この事実を報告したそうです。しかし、それから、もう1年以上が経過。日産は東京都に汚染の事実を公表するよう指導を受けてはいたようですが、全体の把握を待つとして、そのまま放置されてしまったわけです。

 もちろん、報告を受けていた都の環境局もまた、事実を知りながら、それを日産まかせにして、事実を公表してきませんでした。ちなみに、都の環境局といえば、「杉並病」の調査データについても、隠蔽工作とも思える調査契約をしていたことがありますが・・・(こちら

 なお、この土地は、日産が都市基盤整備公団に売却する予定ですが、その後は、防災公園や宅地化されることになっています。しかも、防災公園部分については、杉並区がこれを購入する方向で、動き出していたところなのです。

 当然、日産には、しっかり責任をとってもらわなければなりませんが、行政も汚染実態を正確につかむために、今後、すぐに周辺地域の精密調査を行う必要があります(日産が行った調査は、あくまで日産の敷地内のみ)。

 しかし、杉並区は、周辺地域の汚染について、あまりにも楽観視しているようなのです。これはいったいどういうことなのでしょうか? 以下、その実態を検証していきましょう。


 工場跡地 その汚染の実態(日産の調査結果)

  日産の調査報告書によれば、最も汚染がひどかった地点では、土壌から環境基準の1,633倍ものトリクロロエチレンが検出され、同じく地下水からも同物質が環境基準の366倍も検出されたことが明らかになりました。

 さらに過去の絞り込み調査の結果によれば、15,733倍ものトリクロロエチレンが検出されていたことも明らかになりました。参考までに、日産の発表した調査結果をご覧ください。
■絞込調査(第2次)の調査結果(土壌)
有害物質名 環境基準 調査結果(最高値)
トリクロロエチレン 環境基準の15733倍 溶出量0.03mg/L 472mg/L


■揮発性有機化合物の調査結果
  有害物質名 調査結果 環境基準値 or 東京都参考値
土壌 トリクロロエチレン 49mg/L 0.03mg/L 環境基準の1633倍
シス1,2-ジクロロエチレン 2mg/L 0.04mg/L 環境基準の50倍
テトラクロロエチレン 0.12mg/L 0.01mg/L 環境基準の12倍
地下水 トリクロロエチレン 11mg/L 0.03mg/L 環境基準の366.7倍
シス1,2-ジクロロエチレン 9.4mg/L 0.04mg/L 環境基準の235倍
テトラクロロエチレン 0.011mg/L 0.01mg/L 環境基準の1.1倍
1,2-ジクロロエタン 0.0041mg/L 0.004mg/L 環境基準ギリギリ
※このほか土壌からは「東京都汚染土壌処理基準」の参考値を大幅に超える水銀や鉛、カドミウムなどが検出された。


 工場跡地内においては、日産が責任を持って対処するとのお話があります。しかし、周辺地域から汚染が出た場合には、いったいどうするのか、定かではないのです。行政側からも、最悪の事態(外部汚染)を想定した発言は聞こえてきません。

 ただ、今回、私が独自に調査し、資料収集したところ、周辺に汚染が発生している可能性を示すデータは、すでに存在していました(あくまで可能性です。もともとが準工業地域なので、他の原因によるものかもしれません。なお、次回その2で、この点を含めて話題にする予定です)。

 なぜ、行政は跡地外部の汚染の可能性について、深い関心を示さないのでしょうか? それを考える前に、まず、今回は、これまでの行政側の行った調査の概要を確認しておきましょう。


 周辺地域の井戸水調査(東京都・杉並区調査)によると・・・

 工場跡地の汚染をふまえ、それが外部に拡がっていないかどうか調べるために、行政は、周辺地下水(井戸)の水質調査を行っています。その調査結果が10月17日付で発表されています。

東京都&杉並区実施 周辺地下水の水質調査概要
●調査対象井戸  工場跡地周辺(工場跡地の外部)の井戸水を調査
おおむね跡地より200m以内に存在する井戸26ヶ所
●実施日  9月28日〜10月5日
●調査項目  工場跡地内の調査で環境基準(または含有量参考値)の超過がみられた7項目
●調査結果 調査した26の井戸のうち、2ヶ所で環境基準を超過していた。
 このうち1地点ではテトラクロロエチレンとシス−1 ,2 −ジクロロエチレンが、他の1地点ではテトラクロロエチレンが環境基準を超過していた。
●行政の見解  これらの環境基準超過地点の汚染原因は、地下水の流れ方向や周辺の調査対象井戸の水質の状況から判断し、荻窪事業所の土壌・地下水汚染とは関連がないと推定。以上のことから、荻窪事業所の土壌・地下水汚染は、現在のところ、周辺の地下水に影響を及ぼしていないと判断。


 しかし、この調査結果を以てして、周辺地域の土壌まで安全であると判断することはできません。この程度の調査で、工場外部(周辺地域)が汚染されていないと推定するのは、あまりにも安易な判断です。以下、その理由を指摘していきましょう。


 区の調査結果 結論に残る5つの疑問

 今回の調査結果には、腑に落ちないものを感じ、私も独自に調査を進めました。
 その結果、区が出した結論・見解について、次の5点に疑問を感じています。

井戸水調査の調査地点について
なぜ、現存する井戸だけ? 土壌調査はなぜしない?
水質調査の調査結果について
今後の区の調査方針について
今後の日産自動車との交渉はどうなる?  だからこそ、いま精密調査を行うべき

 以下、順次みていきましょう。


第一の疑問は、
 調査地点に関する情報(とくに深度)が明確に明らかにされていないことです。

 行政の行った調査結果報告書を読んでも、調査した地点の深度が明記されていないのです。通例、井戸を調査したのなら、具体的に何メートル地点で調査をしたのか明らかにするものです。深度によって、汚染の度合いが変わるわけですし、この点がまるで明らかにされていないのは、ヘンな話です。

 また、都と区が行った井戸調査の結果によれば、調査した26地点のうち、2地点で環境基準を超過している井戸があったというお話です。とくに、このうちの一つは地下水の流れの下流側にあるというお話です。しかし、区ではこの地点より工場跡地に近い井戸の水質は汚染されていないため、この井戸の汚染は、工場を原因とする汚染ではないと推定したそうです。

 しかし、その根拠は、どうもハッキリしません。また、この地点より工場に近い調査井戸が、具体的にいくつあったか、その深度はどの程度だったのか、調査結果報告書には全く記載がないのです。

 
第二の疑問は、
 調査方法についてです。

 識者に話を伺ってみました。すると、このような調査をする場合には、通例「表層ガス調査」という調査を行い、その結果、汚染のもっとも激しいホット・ポイントについては、観測井戸を掘って精密に調査を行うのが常識だというのです。実際に、日産自動車も、敷地内で行った調査においては、こうした調査方法を用いていました。その結果、今回のような汚染が明らかになったわけです。

 ところが、行政が行った調査方法は、たんに現存する井戸の水質を調査したのみであり、非常に簡単な簡易調査に過ぎないものです。私が問い合わせた識者の話によると、「この程度の調査で、周辺に影響がないと推定したのは、いったいなぜなのか、まるで理解できない」と指摘しています。

 
第三の疑問は、
 水質調査の調査結果そのもの(結論)についてです。

 常識的に考えて、周辺の井戸がまだ汚染されていないからといって、周辺土壌がまったく汚染されていない理由にはならないはずです。今回の報告書では、これについて、区はどう考えているのか、まったく答えが示されていないのです。

 日産側の調査による工場跡地内の汚染状況を見ても明らかなように、工場による汚染は、土壌が先に汚染され、地下水の汚染はそれに続いているわけです。今回の日産工場跡地においても、トリクロロエチレンによる汚染は、土壌が最高で環境基準の15,733倍に対し、地下水は最高で366倍という結果が出ています。

 要するに、地下水よりも土壌汚染のほうが、はるかに深刻だったわけです。一般に、地下水汚染が深刻になるころには、土壌は相当激しく汚染されているものであり、地下水の汚染が軽微だからといって、土壌までが汚染されていないと判断することはできないそうです。

 ところが、都と区が行った調査は、現存している井戸から取水した地下水のみを調査しています。にもかかわらず、この水質調査だけで、区は周辺の土壌までも影響がないと安易に推定してしまっているわけですが、これはいったいどういうことなのでしょうか?土壌に関する精密な調査も行わずに、土壌が安全であると推定するのは、まったく理解できないことです。

第四の疑問は、
 今後の区の調査のあり方(調査方針)についてです。

 調査報告書によると、今後の杉並区の対応について、周辺の井戸については今後もモニタリング調査を実施する旨の記載がありました。しかし、先にも指摘したように、現存する井戸だけを調査しているだけでは全く不十分であり、ましてやそれだけで安全であると説明するのは非常識なことです。

 すぐにも、周辺地域での表層ガス調査を行い、さらに必要がある場合には観測井戸を掘って詳細調査・絞り込み調査を行うべきであると考えますが、その意思はあるのかないのか、この点について、区の文書には全く触れられていません。必要ないという判断なのでしょうか?

 
第五の疑問は、
 今後の日産自動車との交渉について不明確な点です。

 調査報告書には、汚染者負担の原則に基いて対策をとると記載がありました。当然のことであると思いますが、それをいうならば、周辺地域の汚染が他よりも明らかに強く、汚染が明確になったときには、日産がその処理費用を全額負担するよう、区は早く文書で確約を取っておくべきです。

 しかし、その旨の記載はどこにもありません。このままでは、将来、区はトンでもない負担を背負い込む可能性があります。

 工場跡地の一部は、国の防災公園街区整備事業に則って防災公園を整備することになります。この事業は、昨年の国の補正予算で進められており、今年度までの繰越明許となっています。要するに、今年度中に事務作業を完了させなければ、国や都からの補助は受けられません。補助がなければ、防災公園にすることも、それを区が買い取ることも、どちらも不可能になってしまうのです。

 年度末まで残り4ヶ月。もう多くの時間は残されておりません。その結果、周辺の汚染について調査されないまま、うやむやのうちに事業が進んでしまう可能性があります。これでは、周辺への汚染の実態が正確にわからないまま、日産が土地を売却してしまう可能性があるのです。こうなってしまうと最悪です。

 もちろん、本当に汚染がなければ、幸いなことです。しかし、もし、日産が工場跡地を売却した後になって、周囲に深刻な汚染が発覚するようなことがあったとしたら、日産の責任を追及することは、ほとんど不可能になってしまうでしょう。そうなった場合、おそらく、その責めは、第一義的に「行政の不作為」によるものと言われかねないのです(だからこそ、いま、精密調査を行うよう強く要望しているのです)。

 みなさんは、どのようにお考えになるでしょうか? 次回、さらに引き続き、この問題を検討していきたいと思います。

  次回につづく(来年予定)


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