【杉並区】肺がん3回連続「見落とし」問題/外部検証等委員会(第三者機関)の立ち上げにあたって/杉並区議会議員(無所属)堀部やすし
平成30年(2018年)8月22日

 杉並区の委託を受け、河北医療財団(河北健診クリニック)が実施した肺がん検診・区民健診などにおいて、3回連続の「見落とし」が発生し、40歳代の女性がお亡くなりになりました。ガイドラインに沿って定められていた実施要領が守られていなかったことによるものです。

 杉並区の対応経過
(杉並区保健福祉部による説明の概要)
5月7日 河北医療財団側から、本事案について口頭で報告を受ける。
6月17日 杉並区長選挙(告示) 
6月19日 医師会(肺がん検診の委託先)を通じて、河北医療財団による「院内検証委員会報告書」を受け取る。
6月20日  杉並区・医師会・河北医療財団による三者会議(2014年9月以降に河北健診クリニックで実施された肺がん検診の再読影を決定)
6月24日 杉並区長選挙(投票日) 
6月25日 杉並区長選挙(開票日)/田中良区長3選
6月26日  区が当該者側へ面会の意向があることを河北医療財団を通じて伝える
7月9日  ご遺族に謝罪(杉並区長、医師会会長・副会長、河北医療財団理事長) 
7月12日  河北健診クリニックが実施した肺がん検診の再読影完了(新たに44人が要精密検査になったとの報告を受ける)。 
7月17日  杉並区・医師会・河北医療財団による合同記者会見(この段階で初めて事案が公表される)
8月14日  外部検証等委員会の設置に必要となる条例案などを発表(議会に提示) 
8月22日  条例・補正予算の可決成立を受け、区長が「外部検証等委員会」を設置。

 この「外部検証等委員会」の設置に先立ち本会議場で行った8月22日の演説(内容)について、記者の方よりお問い合わせを受けましたので、以下に紹介します(なお、録画については、議会公式ページ上に現在速報版が配信されています)。

 河北医療財団は、杉並区の委託・保険給付・補助などを通じ、いわば杉並区と一体となって事業を展開してきた法人です。河北総合病院を中心として、医療・介護分野で次々と規模を拡大してきました。

 河北理事長は、過去たびたび田中区長の政治資金パーティーの発起人に就任するとともに、田中区長に対して政治献金をされてきた方でもあります。

 したがって、本事案の調査検証は、独立性・中立性・客観性が十分に確保された中で実施されなければなりません。


【杉並区】河北健診クリニック 肺がん3回連続「見落とし」問題
 外部検証等委員会/第三者機関の立ち上げ(条例設置)にあたって


 本件条例(杉並区肺がん検診外部検証等委員会条例)は、河北医療財団・河北健診クリニックが実施した区肺がん検診において「見落とし」が発生したことを受け、その調査検証を行うために、地方自治法138条の4第3項に基づく附属機関を設置する根拠を設けるものです。

 「見落とし」によりお亡くなりになったAさんは、当該医療機関において、2005年以降10回の健診を受けるなど、早期に発見できる機会があったにもかかわらず、肺がん検診を含む3回連続の見落としによって、その尊い命が40歳代で失われるところとなりました。

 ご遺族のお悲しみはいかばかりかとお察しいたします。心からお悔やみ申し上げます。

 この事実を重く受け止めるとき、本事案について外部検証を行う必要性・緊急性は疑うべくもなく、独立性・中立性・客観性の確保された外部検証組織の設置は不可欠です。したがって、設置に賛成するとともに、その執行に万全を期すため、以下要請します。


 業界内のインナーサークルで調査検証を終えることのないように


 第1に、委員の人選は、保健医療関係者のみならず、弁護士など法曹関係者を含めなければなりません。

 外部検証等委員会を設置する最大の目的は、原因の究明にあります。このため、本件は、まず見落としの背景を客観的に調査検証することが必要というべきであり、業界内のいうなればインナーサークルで調査検証を終えるのは妥当ではありません。

 杉並区医師会に委託する形で実施されている区肺がん検診の受診者は年間約2万5,000人、このうち河北健診クリニックには全体の20%にあたる約5,000人の受診が確認されています。少なくない区民が影響を受ける問題です。

 医師会と随意契約している責任主体は区にあるとはいえ、本件の主たる調査検証対象は、委託先の医師会及び医療機関です。これらと同業にある者が、委員の過半数を占めるような人選は慎まなければなりません。


 利害関係者の範囲を狭く解釈しないように


 設置される外部検証等委員会は、学識経験者その他区長が適当と認める者のうちから、区長が委嘱する委員4人をもって組織することとなっており、昨日の審議においては、医師や公衆衛生の専門家から人選する意向が示されていました。

 区長の附属機関である以上、区長が委員を人選することになりますが、原因究明手続きの客観性を確保するためには、保健医療の関係者だけでは不十分というべきです。

 例えば、弁護士など法曹経験者のなかにも、医療問題に精通されている方、医療訴訟の経験豊富な方、医療事故などに関わった経験のある方、あるいは医師免許を有する方などもいらっしゃることを踏まえ、適切な人選を行うよう求めます。

 当然のことながら、委員の委嘱にあたっては、利害関係者の範囲を狭く解釈することは許されません。その独立性・外部性を名実ともに確保するため、委嘱に先立っては厳格な対応が必要であることを指摘します。


 院内検証委員会「報告書」の開示を渋る理由は?


 第2に、情報公開の不徹底は、速やかに改善されなければなりません。

 区は、本件事案について、5月7日以降、口頭で報告を受けるとともに、委託先である医師会と協議を行っていたとのことです。

 医師会を通じて河北医療財団による「院内検証委員会報告書」を受け取っているのは6月19日(杉並区長選挙の5日前)。その後、記者会見が行われたのは7月17日のことです。事態の把握から2か月以上が経過しています。

 その背景事情については推測できないわけでもありませんが、河北医療財団より提出されている報告書(現物)が、本日8月22日現在、いまだに開示されていないことについては不可解で、到底納得できるものではありません。

 記者会見などで明かされていない「真相」がそこにあるのではないかと疑われても仕方がないものです。


 特定個人として識別できる情報以外は公開を


 そもそも現行の個人情報保護法は、その第2条の定義に明確にされているように、原則として死者の情報を個人情報とは位置づけていません。

 また、お亡くなりになったAさんが、河北総合病院のほか、どの医療機関を受診されたのか、あるいはどの医療機関でお亡くなりになったのかといったレベルの情報については、区の個人情報保護条例においても個人情報に該当するとは言い難く、正確に開示しなければならない情報というべきものです。

 ご遺族への配慮は当然に必要であるとしても、河北医療財団への配慮、具体的には河北側への照会手続きにより開示決定を延長していることは、この問題に直接関わる議案審査が必要になった現状下において、理解に苦しみます。

 本件が、区委託事業において発生した事案を対象としていることを踏まえれば、議案審査を前に安易な公開決定の先送りが行われたことは疑問であり、外部検証組織のあり方を検討するうえで、議案審査前に開示することは不可欠というべきでした。


 独立性・中立性・客観性に疑いをもたれることのないように


 一般的な行政評価においても、所管課レベルが行った一次評価を踏まえて、段階的に二次評価から三次評価(外部評価)が行われていくように、必要な外部検証の態勢を整えるためには、事実関係の整理とともに、当事者からの報告など一次評価を確認する必要があります。

 今回のケースにおいても、院内における第一次的な検証結果を把握することなくして、相応しい外部検証組織のあり方を定めることはできないというべきです。その内容次第によっては、調査検証を担う外部委員の選任基準や予算措置の内容などは大きく変わってくるはずなのです。

 たとえば、①調査対象として、ご遺族のみを想定する形で、訪問のための交通費等旅費の予算措置が行われていますが、4月13日に救急搬送された大学病院や最終的な転院先などは、なぜ、対象に含まれていないのか。なぜ、その必要性はないと予算上判断されているのか。現時点で当該報告書が非開示となっていることから、それが妥当か否か、全く判断がつきません。

 ②河北健診クリニックにおいて平成26年9月以降実施した肺がん検診を改めて再読影した結果、新たに要精密検査と判断されたのは44人であると公表されています。

 昨日の説明によれば、この中で現在までに精検実施済みの方は31人、このうち現在までに結果が出ている27人中の10人、より具体的にはE判定20人の中の10人が「要精査」となっているとのことでした(肺がん確定ではないものの、より強く疑われる状態ということになります)。

 補正予算上は、これら個別の方への追跡は最初から想定外として扱われていますが、果たして、それでよいのか。これも現時点で当該報告書が非開示となっていることから、客観的に判断がつかないところです。

 総務財政委員会での審議において、区長は「早く予算を通してもらいたい」と述べていたところですが、予算の編成権及び提案権は区長のみが有する権限であって、事案の把握からかなりの時間が経過したうえ、お盆の真っ最中に補正予算を提示してきたのは区長です。議案審査時に必要な情報開示を行うことなく議会に同意を求めてきていることを含め、その姿勢は疑問続きとなっています。

 この外部検証等委員会は、区長の附属機関として設置されるとはいえ、その設置は、地方自治法に基づき議会同意が必要とされているものです。議会はその内容について修正権などを有していることを踏まえ、以後、必要にして十分な情報開示を速やかに進めるよう強く要請します。

 なお、本件については、記者会見の当時から、保健福祉部長が「9月末くらいに検討結果をまとめたい」と明言していたことがわかりました。

 これら一連の諸事実を総合すると、すでに今回の外部検証手続きには一定の筋書きがあるとも考えられますが、くれぐれも独立性・中立性・客観性に疑いを持たれることのないよう留意のうえ、充実した外部検証が行われることを祈念しています。
(杉並区議会本会議8月22日堀部やすし演説原稿から)


杉並 堀部 杉並区議会議員堀部やすし公式サイト  杉並 堀部 ご意見はこちらへ

ツイッター