杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2002

これでは高値買収ではないか

杉並区による日本興業銀行(みずほ銀行)用地の買収価格にモノ申す!
〜決算討論より
 杉並区は、昨年、日本興業銀行が所有していたグランド用地4.3haを買収しました。

 この件については、過去さまざま問題提起をしてきたところですが、決算審議にあたり、ようやく不動産鑑定書が公開されるところとなり(当初、区は公開を拒否していたのです)、これをふまえて今回、諸事情を総合的に検討してみました。

 予想したとおり、やはり買収価格は不適切と判断せざるをえませんでした。

高値買収・・・まずは問題の背景をみると
 1999年秋、区は、突如として浜田山2丁目にある興銀グラウンド4.3haを買収する方針を発表するとともに、仮称・杉並南中央公園を創設する方針を発表しました。

 この日本興業銀行は、「みずほフィナンシャルグループ」の一員として、新しいスタートを切っていますが、今なお不良債権の重圧に苦しみ、多額に及ぶ公的資金を受け入れている、そういう銀行です。

 このため、興銀は財務体質の改善を迫られ、国の指導に基づいてグランドを売却することになったわけです。

 これに対しては、区も前向きな姿勢を見せ、銀行救済ではないかとの批判もあるなか、ここを早々に区立公園化する方針を打ち出しました。

 もちろん、杉並区の将来展望の上では、みどりの保全や防災公園の整備は重要な課題。私も、この事業の必要性は理解するものです。

 しかし、同時期に他の地域にも防災公園整備のニーズがあったこともあり(日産荻窪工場跡地=周辺はオープンスペースが不足している)、私は相対的に見て、興銀グランドの買収規模は半分程度にとどめ、むしろ日産工場跡地のほうで、より大きな用地を確保したほうがよい・・・と主張してきました。


興銀用地の買収規模を半分に抑え、
その分、日産跡地で大きな用地を確保すべきだった理由

 その理由は、
  1. 興銀グランドのうち、みどりが占めているスペースは約1.7haであり、用地の買収規模を半分に抑えたとしても、みどりの保全を図ることは、十分可能である。

  2. 興銀グランドは、用途指定上の制約から、その一部が民間に渡ったとしても、周辺の住環境は悪化しない。

  3. 興銀グランド周辺(浜田山)は、そもそも都内有数の高級住宅街。一部を住居にすることで、税収も期待できる。反面、当該用地のすべてを買収をしてしまえば、毎年1億円にも及んでいた固定資産税収等をすべて失うばかりか、今後行政が負担する維持管理コストも極めて膨大になってしまう。

  4. 都市のみどりを増やすという点については、区の一部の地域に偏在して緑化を推進をするというのでは全く意味がないのであって、それは都市全体で等しく進めるべきものである。

  5. 防災公園の整備が必要とされているのは確かであるが、区内にはオープンスペースに恵まれている地域がある一方で、まだほとんどスペースを確保できていない地域もある。整備はスペースの不足している地域を優先課題とすべきである。

     つまり、興銀グランドの周辺は比較的オープンスペースに恵まれていることから買収規模を半減すべきで、その分は、当時交渉中であった日産荻窪工場跡地にて、より広い用地の確保に努めるべきであったと考える。

  6. 区に実質的な財政負担はないとした当初の説明とは異なり、区の負担は軽いものではなかった。

     なお、区の説明は、財政調整交付金を区の負担ではないかのように説明しているが、これは市町村税を財源としたものであり、もともと基礎的自治体の財源である。

  7. 固定資産税等の減収分なども、決して軽いものではない。また、治安の悪化を懸念する声もあり、交番の設置など関連する維持管理費・運営費は、億を超える可能性もある。

     なお、日産跡地の場合は、公団の開発も伴うため、マンションが併設される。同時に居住人口の増が見込まれることを考えると、財政的に負担ばかりを伴うものではない。

  8. これらを総合的に考えるとき、当該用地のすべてを区が取得する必要性が高いとはいえず、買収規模は半分に抑えるべきである。

 主に以上のような理由により、この件については、強い懸念を表明してきました。


不動産鑑定書 ようやく開示決定

 さて、この買収にあたっては、当然、杉並区も不動産鑑定評価書を準備し、興銀との交渉に望んでいます。この問題を詳しく検証するには、まず、基礎資料のひとつとして、この鑑定評価書を入手することが必要不可欠となります。

 ところが、当初、私がこれを区に請求したところ、なんとあっけなく非公開とのこと。「決算審議に必要な資料を出さない」という決定なのですから、これには私も驚いてしまいました。

 ただし、公共事業に関し、不動産鑑定評価書を非公開にしていた事件については、昨年2月14日に横浜地裁で判決が出ており、非公開にしていた横浜市が敗訴しています。

 事前公表はともかく、事後公表もダメというのでは、そもそも区長の選挙公約「情報公開No.1」に反するばかりか、この10月に施行したばかりの新・情報公開条例にも反することでもあり、強く抗議しました。

 最終的には、決算審議の過程のなかで、なんとか不動産鑑定評価書が公開されることとなり、客観的に検討することができましたが・・・隠す必要のないもの(条例で公開しなければならないもの)を隠そうとするには、それなりに理由があるものです


興銀が売却するワケ

 現在、日本興業銀行(みずほ銀行)は、国の指導に基づく経営健全化計画に沿って、経営の立て直しを迫られているところです。

 いうまでもなく、この用地の売却も、この計画に沿って、区に打診してきたものです。

 なにより、この用地買収は、一般の強制収用等とは訳が違い、あくまで興銀側の事情に基づいて、区が用地買収に応じただけのことです。

 当然、区が他人様の財産権を侵して用地を強制的に収用するという話ではありませんし、区民の税金をお預かりする立場であることを踏まえれば、あくまで合理的な金額で売買契約を結ぶべきであって、そこには「適正価格で補償する」というような考え方が出てくる話ではないはずです。

興銀側に有利な売買価格 その理由

 しかしながら、総合的・客観的にみて、実際の売買価格は興銀側に有利な価格と判断せざるを得ないものがありました。

 今回の買収額は、約115億7,532万円。なお、公開された鑑定評価書によれば、当該用地の鑑定評価額は、117億7,300万〜118億8,600万円でした。

 買収額と鑑定評価額との差額は、1億9,700万〜3億1,000万ということになります(鑑定額に対する売買契約価格は、約97%〜98%)。

 この買収額は、一見安く買ったかにみえます。しかし、それはあくまで名目上のものであって、実際には興銀側に極めて有利な額での売買でした。

 それは、まず、第一に、売買にあたっては、不動産業者を通さなかったため、仲介手数料が不必要であったこと(過去の一般例に沿うと、この規模では3億6000万程度の手数料となります。まず、それが全く不必要でした)。

 第二に、土地を売却したとはいえ、不良債権の償却によって興銀側にはほとんど課税が発生していないこと。

 第三に、買収にあたり、収益価格については全く考慮されなかったこと、
 第四に、譲渡にあたって工作物等の撤去の必要はほとんどなく、興銀側の手間も譲渡費用も、規模の割には低いものであったこと。
 
 そのほか、第五として、もし、区が全部買収を決めなければ、不動産業者を通したり、小口に販売する面倒な作業が必要になったほか、さまざまな工作物も自らの負担で撤去する必要に迫られるなど、興銀側に実に多くの譲渡費用が必要となっていた・・・などなど、この件についての興銀側の経費支出は、極めて低く抑えられている背景を見落としてはいけないのです。


 再度繰り返しになりますが、この用地買収は、一般の強制収用等とは訳が違い、あくまで興銀側の事情に基づいて、区が用地買収に応じただけのことで、区が他人様の財産権を侵して用地をムリヤリ取り上げるという話ではないのです。

 つまり、完全補償ではなく、経済合理性に則って売買価格を決めるべきだったのです。

 区民の税金を預かる立場であることを踏まえれば、あくまで合理的な金額で売買契約を結ぶべきであって、そこには適正価格で補償するというような理屈が出てくる話ではないはずです。


公約の「経営感覚」はどこに?

 相手は、きわめてイレギュラーな形で公的資金を受け入れた銀行であり、その批判も存在する中。区として、以上の点を踏まえた上での価格交渉や買収額の決定がなされなければ、到底区民の納得は得られないはずであって、その意味で、今回の買収価格は適正額とはいえないと判断せざるをえないのです。

 区は、予算審議の折には、鑑定価格より安いという簡単な説明だけで、不動産鑑定評価書を開示せず、上手に議会に話をしていましたが・・・実際には、このように総合的にみて興銀に極めて有利な買収額だったわけです。

 今回、当初頑なに不動産鑑定評価書を非公開にし、なかなか正確な鑑定評価額を出さなかった理由が、これでやっと理解できたところです。

 そもそも資本主義のルールから言えば、この銀行は、本来、市場からご退場いただかなければならない銀行です。しかし、実際には、そのような銀行を救済するためにケタ違いの公的資金を入れたために、かえって国民の財産が守られていないばかりか、多くの国民の痛みが、むしろ拡大しているところであり、モラルハザードもはなはだしい状況です。

 そこで、銀行が収益をあげながらも、ほとんど課税されていない状況が続いていることを鑑み、東京都は、銀行業に対する外形標準課税を導入し、そのバランスをとったところです。

 もっとも、この税制には賛否両論あると思いますが、こうした経営努力が、地方分権一括法によって、国と対等の立場になった「自治体の経営手腕」というものなのではないでしょうか。

 今回のような不適切な価格での用地買収は、明らかに区側の努力不足であり、まして、これでは区までが公的資金を使って、銀行救済に協力したと言われても、何ら返す言葉がないものです。

 その買収額の大きさを考えれば、財政への影響も大きく、到底容認できるものではありません。区には猛省を促すとともに、改めて、今後の財政運営をしっかり注視していかなければならないと考えています。



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