杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 7月C No.60

杉並病

東京都の損害賠償提案を検討すると


 
  7月25日、東京都環境局は、突然、杉並区に内容を打診することもなく、いきなり「杉並病」騒ぎをめぐる損害賠償提案を行いました。これを受けて、さっそく翌日開かれた区議会の特別委員会の場でも、この話題が取り上げられました。

 
 個人賠償を受けることで、まだ解決していないこの問題が、あたかも解決したかのように扱われるのではないかと心配しています。もし、賠償を受ければ、陰に陽に「カネをもらったのだから、もう文句は言うな」というような雰囲気になってしまうのではないか・・・一抹の不安を感じています。

 まず、都の提案内容を確認してみましょう。
ゴミの搬入 杉並中継所ゴミの搬入光景 杉並中継所



東京都の提案する賠償提案

●補償の概要 
 指定期間内に指定地域内で異臭を感じて、指定症状を発し、医療機関で診察を受けた方を健康被害者と認定し、損害賠償を行う。想定される対象者は約100人。賠償総額3000万円(一人あたり30万円か?

指定期間とは・・・
 中継所の排水から出た硫化水素により症状が発症したと認められる期間
 具体的には、平成8年3月1日から8月31日まで。なお、硫化水素が発生した中継所の排水の下水道への放流は、3月1日から始まり7月18日に停止されているため、この期間内に限定したとのこと。あくまで原因は硫化水素のみであり、中継所から発生している排気には、過去も現在も問題はないという姿勢を貫いている

指定地域とは・・・
 中継所の排水から硫化水素が健康被害を及ぼしたと推定される地域
 具体的には、井草4丁目1番から18番まで及び22番 井草5丁目1番のうち緑道から東側の部分及び11番から15番まで。下水道の経路を踏まえた指定とのこと。

指定症状とは・・・
 硫化水素により一般的に起こる症状
 硫化水素とクレオソート以外に原因はないとする都の調査委員会の結論を踏まえたものであるが、なぜ、クレオソートが除外されているのか不明。もし、クレオソートは都の問題ではないとするにしても、区に施設が移管されてきた以上、公表前に都区間で協議することが必要だったのではないか?

 なお、これまで指摘してきたように、
硫化水素単独原因説には、まだまだ疑問が残っている

 出典:「杉並中継所の排水に含まれていた硫化水素により健康被害を受けた方々への損害賠償について」 東京都環境局 2000年7月25日プレス発表資料より



 突然の発表 区も知らなかった賠償内容

  都の調査委員会の見解(3月末の調査報告)によれば、この地で問題になっている健康不調の原因は、杉並中継所の排水から流れ出た硫化水素ということになっており、区立井草森公園で散布されたクレオソートにも原因があるかもしれないというものでした。また、現在では、もう適切に措置されており、杉並中継所の操業は全く問題ないという結論になってもいました。

 もちろん、調査の不十分さや調査データの破棄といった経緯からみて、中継所から出される排気に全く問題がないと断定してしまうのには少々疑問が残るのは、すでに過去に指摘したとおりです(週間報告4月第1週4月第3週へ)

 まず、驚いたのは、今回の都の賠償提案は、区に対し具体的な事前調整が行われたわけではなく、東京都の一方的な決定だったということでした。都の調査委員会の結論でいけば、都だけでなく、区にも責任がある可能性があったわけですが、とにかく都は自分たちの出した結論に沿って、補償内容を決めてしまったわけです。

 このため、区の理事者からも、東京都の方で決めたことなので、区としては何とも言えない・・・という趣旨の発言が飛び出てきました。


 個人補償ですべてが解決するわけではない

  ちなみに、この問題、国の公害等調整委員会では、まだ結論が出されていない段階にあります。その意味では、この問題は、まだ終結宣言を出すことのできる段階ではなく、多くの疑問が残されたままになっているわけです。実際に、3月末に発表された都の調査委員会の報告については、
メディアも、これを疑問視するような報道をしていますが、補償さえすれば、それで解決という段階には、至っていないのです。

 すでに週間報告6月第3週・第4週で主張したように、中継所をなくすために必要なことを進めていくことが重要であり、地域全体の安全性を確保することを優先すべきだと考えています。一人30万円出せば解決だといわんばかりの提案に、被害者のみなさん方も、まだ「とても乗れる話ではない」といった受け止め方をされている方がいます。今回の都の提案内容は、あくまで都の調査結果・結論の押しつけになっているとの感は拭い切れず、「
被害の全容や原因など分からないことばかりなのに、硫化水素で幕引きをしようとする都の姿勢には、公害問題に対する謙虚さが足りない」(太田哲二区議の指摘@東京新聞7/26)という指摘は、もっともかと思います。

 
真の解決とは、提起されている疑念を解くことにあって、たまたま症状が出た方に補償を行うことではないはずです。香川の豊島産廃の場合も、住民は補償を放棄し、それよりむしろ産業廃棄物の撤去と風評被害の防止を優先させました。杉並の場合も、多くの住民は、個人的にお金がほしいわけではないはずです。このような問題が話題になった以上、杉並中継所が存在し続ける限り、風評被害は止まないことでしょう。都にはくれぐれも個人賠償をしたのだから、中継所は未来永劫、今のままで運営してもよいのだ・・・というような開き直った態度を取らないようにお願いしたいと思っています(なお、過去に指摘したとおり、この先20年間、杉並中継所を廃止するには、東京都の承認が必要になっています)。

 とくに、これまでの東京都によるデータ隠しやデータ破棄行為などを踏まえても、都(当事者)の下で出された調査結果や結論を鵜呑みにできる段階にはありません(その理由については、4月第1週・第3週報告へ)。
国の公害等調整委員会の結論を待って、今後は賢明な判断をしていただきたいと思っています。


 不燃ゴミの組成調査から
 先日、公表された「杉並中継所搬入ゴミ組成調査第1回報告」によれば、杉並中継所に運ばれてくる不燃ゴミの約10%が可燃ゴミであり、約25%がリサイクルすべき資源ゴミ(ペットボトルや空き缶など)でした。このほか、搬入された不燃ゴミの約53%がプラスチック類であったことが明らかになりました。   杉並中継所に搬入された不燃ゴミ 
杉並中継所に搬入された不燃ゴミ


ご意見、ご感想はこちらまで