杉並区議会議員(無所属)堀部やすし最前線



減税自治体構想(減税基金)の現状と課題
(その2)新年度予算の現状/減税自治体構想とは
2010.3
●法人税収の落ち込みは顕著

 平成21年11月、東京都は平成21年度の都税収入(見込)を当初予算時より大幅に引き下げました。

 その内容は法人税収を中心とした都税収入が前年比1兆円のマイナスとなる見込を公表するものでした(東京都の一般会計規模は毎年ほぼ6兆円台)。

 東京都には、バブル崩壊時の最高記録として、平成4年に前年比マイナス4700億円という減収記録が残っています。今回はその2倍超のマイナスを記録しようとしているわけです。いかに大きな減収規模か、おわかりいただけると思います。

 年度途中で見積が狂い、大幅減となることは、各方面に大きな影響を与えます。

 杉並区においても、東京都から交付される財政調整交付金が大幅に減額となりました。このため、一般会計補正予算第6号において財政調整基金(区の貯金)からさらなる取崩しを余儀なくされています。

 都区の財政は非常に厳しい局面を迎えています。

●杉並区の当初予算は

 これに引き続く平成22年度一般会計当初予算(1512億円)においても、状況は厳しく、その帳尻は、やはり多額の基金取崩しによって対応することとなりました。

 基金からの取崩しは総額159億円となる見込です。

 この影響から、鳴り物入りでスタートする減税基金にはわずか10億円しか積立を行うことができませんでした。しかも、災害対策基金25億円を廃止することで、これを生み出すという実に苦しいスタートとなりました。

●日本全国で「格差是正」を理由にした財源/負担の共有化が進行中

 今後についても、楽観することはできないでしょう。

 経済低迷による法人税の還付(企業の業績悪化により納めすぎた法人税を払い戻すこと)が、今後も引き続き多数発生すると見込まれています。

 国際競争の観点から法人税の軽減を求める意見も小さくなく、政府においても検討が進められています。

 それらの行方は混沌としていますが、おそらく法人税収を昔のように期待することはできないと想定しておいたほうがよいでしょう。

 なお、特別区においては、法人住民税が都区共有財源となっていることから(都区財政調整制度)、東京都は還付に伴う負担を23区側にも求めており、こちらの行方も混沌としています。格差是正と称して、すでに法人事業税の一部を国に吸い上げられた東京都にも余裕はなく、先行きは楽観できない状態です。

●減税自治体構想とは

 減税基金は、山田区長の提案した「減税自治体構想」を現実化するために、新たに設置された基金です。

 「減税自治体構想」は、毎年、予算の一定額を積み立て、大規模災害などの緊急時の備えとするとともに、将来、これをもとに区民税の減税を行うことを目指しています。

 区よれば、毎年150億円を積み立て、これを1.5%で運用すれば、10年後に区民税を10%減税することが可能だと説明しています。(この計算にはやや無理がありますが、ここではその問題は取り上げないことにします)

 たいへん夢のある構想であり、真に自立した財政を持つ市であれば、本来「その心意気やよし」というところでしょう。

 減税の成否はともかく、築後50年を迎える老朽化した学校施設が過半を占める中、迫り来る関東大震災(首都圏直下型地震)はいつ発生しても、おかしくない状態にあり、これらに備えた内部留保は必要不可欠と考えます。

 しかし、リーマン・ショック以降の経済低迷の影響から、現在、杉並区においても、当初想定していた計画どおりに物事が進められない可能性が出てきました。

 実施計画(3ヵ年の行政計画/公約)の達成を一部見送るか、従来の想定以上に基金を取り崩すか、あるいは事務執行率を抑制するか・・・いずれにせよ、ありとらゆる手段・方法を駆使しなければ、財政計画どおりに区債償還を進めることが難しくなっています。

●構想実現の課題は

 このため、平成22年度当初予算においても、基金を予想以上に大きく取り崩す中で予算を組みました。

 杉並区が当初計画していたような額の区債償還は当初予算には計上されず、それは今後の補正予算に委ねられることになりました。しかし、実現の見通しは非常に厳しいものがあります。

 現時点において、10年後の減税を念頭に置いた基金運用をスタートさせる要件が整っていない状況なのです。平成22年4月から条例を施行するのは、やや勇み足と言わざるを得ません。

 まず、この低金利時代に、過去に借りた高利の区債を放置して先走りしていく点が好ましくありません。高利の負債については、従来どおり優先的に整理していくべきでしょう。

 また、杉並区は、都区制度の下にある「特別区」という制度的限界があり、財政力指数が1に満たないことから、法的にも財政的にも自立した自治体ではないという厳しい現実もあり、これへの対応も必要です。

 さらに、ここへきて東京都知事や港区長といった利害関係者が、(1)地方税の課税原則(主たる国税とは異なる応益課税の原則)に抵触している、(2)都区の財政調整に影響がある、、、といった趣旨から構想に公然と疑問の声をあげるようになってきています。これに対しても理論武装していく必要があります。

 ところが、杉並区は、これら関連する諸課題に対し、いわば無防備のまま正面衝突で挑もうとしています。

 いかに理念が崇高といえども、現状は非常に危険な傾向をみせており、本当に構想を実現するつもりならば、「戦略の立て直し」が必要な状態にあります。

 杉並区財政が、都心で納税されている法人税収等に依存した歳入構造(東京都が交付する都区財政調整交付金に依存した歳入構造)となっていることを踏まえれば、政治的にも強かに、かつ、戦略的に対応していくことが不可欠です。

 では、次のページから、この構想の現状と課題を一つひとつ解説していきましょう。


杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし


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