杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2003/3
選挙の不思議あれこれ

統一地方選を前に「ヘンな選挙制度」を考える
 知事選を皮切りに、統一地方選挙が始まります。この機会に「ヘンな選挙制度」を考えてみます。

 選挙のポスター貼り

 独立系の無所属で選挙に立候補すると、悩みの種は尽きない。とくに、仕方ないと開き直ることができないのが、ポスター貼りである。

 私は、選挙宣伝カーがなくても当落には関係ないと信じ、それを実践してきた。演説はハンドマイクで駅や繁華街だけで行っている。

 しかし、さすがに選挙ポスターがなくても当選できるとは思えない。公営掲示板のポスターや選挙公報は立候補と主義主張を周知するために必要不可欠の手段である。

 ただ、ポスター掲示の手間と維持管理には本当に悩まされる。

 杉並区の選挙では、選挙ポスター用の公営掲示板が513カ所設置される。狭い区のように見えるが、掲示板の数はかなり多い。何ら政治組織を持たない者にとって、この513カ所のポスター貼りは、本当に気の遠くなる作業である。

 つくづく思う。届出をした各候補者が役所等で掲示板にポスターを貼った後、それを各地に設置するというのでは、なぜダメなのだろうか。

 約70組の陣営がいっせいに地域を駆け回ってポスターを貼る姿は異様だし、効率も費用対効果も悪い。もっとも、そう思うのは、私が無所属・無組織だからかもしれないが……

 選挙公営の原則はどこへ? 公営掲示板のポスターの管理も、個人の責任

 ほとんどの候補者がポスターを貼り終えた後、とぼとぼ夜中まで貼って歩くのは、なかなか侘びしいものがある。

 しっかりポスターを貼ったつもりでも、貼り漏れは出てくる。イタズラされるもの・はがされるものも出てくる。選挙期間中は、これらとの戦いである。私のような者にとっては、ライバルを意識している暇などないのが実感である。

 一度、深夜にポスターを貼っていたら、「何やってるんだ!」と警察官に呼び止められたことがある。

 ポスターをはがしをしていると勘違いされたようだ。眠い目をこすってポスターを貼っているのに、まるで犯罪人扱いだった。さらに「選挙事務所はどこだ」と聞かれて、「ありません」と答えたのも悪かったようで、重ねて怪しまれるところとなった。

 しかし、本当に一般的な選挙事務所はなかったので、決してウソはついていないのだが・・・このときは都合20分ほど尋問を受けるハメになってしまった。

 選挙管理委員会は、選挙の管理をしているところだが、個人のポスターの管理まではしない。貼ったポスターのチェックをするために夜通し地域を回ることも、組織のない者にとって気の遠くなる作業である。

 立候補の機会均等を図るために、日本では「選挙公営」がルールとなったはずだが、あいかわらず選挙の実態は私営となっている。このため、当選した後も、私利私欲を図ることに何の違和感も持たない者が出てくるのだろう。

 せめて最初のポスター貼りの時だけでも、もう少し合理的にできるようにならないものかと真剣に思う。

 なぜ、選挙期間中に個人ビラが配れない?

 意外なことだが、地方選挙の場合、選挙期間中に「候補者個人の名前の入った広報チラシ」は配ってはならないことになっている。(なお、知事選・区長選には確認団体という制度があり、候補者名を書かなければ確認団体名でチラシを配ることができるが、区議選はいっさい配れない)

 これは「選挙にカネをかけるな」という趣旨のようである。つまり、カネの有無で当落が決まらないようにするためにできたルールのようである。

 とくに区議選の場合は、候補者数が多い(約70人ほどになる)こともあり、規制をなくすと、選挙中の街がビラであふれてしまう可能性もあると心配されている。

 こうした規制によって、区議選中に配布が認められているものは、「選挙公報」と「選挙はがき」2000枚の二種類だけとなっている。

 しかし、いずれもスペースには限りがある。あとは音声手段を使って活動するしか方法がないので、各候補は、選挙カーを乗り回して「名前の連呼」を繰り返すことになる。

 一例を挙げよう。かりに選挙中に室内で個人演説会を開催しようとしても、告知するためのビラが配れないので、日時や場所を周知する手段もない。(なお、公共施設で実施するには、さらに手続が必要になるうえ、そもそも区市議選では日曜日に実施することもできない。嗚呼!)。

 したがって、こうしたイベントを実施しても、口コミの効く範囲でしかなかなか周知することができないので、せいぜい知り合いがやってくるのみである。これでは何のための「選挙期間」なのか、さっぱりわからない。

 こうした背景もあって、とくに都議選や区議選は、ただひたすら名前や短い単語や標語を叫き散らすだけのイベントになってしまっている。こう考えると、ビラ配布の禁止は、よかれあしかれのような気がしてならない。他に活動できる手段が少ないから、逆に名前ばかり連呼しているともいえるのである。

 不毛な「名前の連呼」やめるためには

 多くの人は日々忙しい。立ち止まって候補者の演説を聴いている時間などないだろう。だから、その都度の話題を提供し、伝達をするための広報物は、候補者にとっても、有権者にとっても、相応に必要なものだと思う。

 カネがかかるというが、一般的にはポスターや電話作戦のほうがかかる。受け手にとっても、ビラよりも、突然に家の前で大声を出されたり、電話がかかってくることの方が数倍迷惑なことだろう。

 地方選挙でも、せめて配布枚数の制限などを検討して、個人の候補者ビラの配布を認めるようにしないと、いつまでたっても、うるさいだけの選挙は変わらない。いい加減になんとかしなければならない。

 私は「拡声器を搭載した選挙宣伝カーは使わない」「車の使用は移動手段としてのみ」「演説は駅周辺のみ」「名前の連呼はしない」というのがモットーで、率先垂範しているつもりだが、しかし、70人も出てくれば、一人や二人が垂範しても、焼け石に水である。

 なお、選挙前に各自が広報チラシを配布することについては、誤解される内容を書いたり、投票依頼さえしなければ、ほとんど野放しである。だから、法の想定とは異なり、現実的には選挙前より選挙期間中の方が活動に対する制約が多いくらいなのである。わけがわからない。

 政党団体には手段があるが

 それでは、選挙中は、どのような活動が抜け穴的に行われているのだろうか。

 ある政党では、単行本やパンフレットの販売と称し、選挙中に宣伝活動を行っているケースがあるという。また、宗教の場合は、布教と称して活動することもあると聞く。この時とばかりに特定の政治団体を支持する診療所が無料血圧測定などを実施しているケースもあるという。どれも違法ではない。

 もちろん、こうした手段であったとしても、地方選挙中は候補者の個人名を文書に書いて宣伝することはできないのだが、話のついでに口頭で話題を出すことはできる。

 ただ、これは組織がある場合の話である。無組織・無所属の場合は、選挙中には何も手段がない。選挙制度は政党や団体に非常に有利につくられていることを痛感させられる。選挙になると、かえって制約が増えてしまうというのは理解に苦しむことだ。いったい「選挙期間」というのは何なのだろうか。

 事前ポスターの不思議

 次回の区議選は、4月20日にスタートし、4月27日に実施されることになった。

 このため、杉並区内でも、各党・各政治団体が街頭に色とりどりのポスターを貼りはじめている。すでに各党の党首と候補者の写真が2人並んでいるポスターが貼り出されているのをご覧になった方も多いと思う。政界では、これを(選挙の)事前ポスターと呼んでいる。

 選挙中以外の時期に投票依頼をしたり、選挙のための売名行為をすることは許されていない。これは公職選挙法に定めがあることである。

 そこで、各陣営では、「講演会を開く」とか「街頭演説会を行う」などという名目で、選挙の前に事前ポスターを貼り、売名を行うわけである。実際の選挙期間は1週間しかないが、こうして実質的な選挙はもう始まっているといえる。

 ただ、いちおう「暗黙の掟」もあって、選挙前(半年以内)に貼る事前ポスターについては、候補者一人だけが目立つように作ってはならないことになっている。もし、意味もなく選挙前(半年以内)に候補者の顔や名前が異様に目立つポスターを貼り出すと、「選挙目当ての売名」と判断されてしまい、捜査二課から警告がくるそうだ。

 そこで、事前ポスターはみな一様に本人の名前や写真がポスター全体の面積の三分の一以内になっている。街の中で見かけたら、ぜひ確認してみてほしい。

 ただ、名目がどうあれ、事前ポスターについても事実上売名目的になってしまっているのが現実だ。もちろん違法ではないが、ここでも法は骨抜きにされているのである。

 事前ポスターも政争の種に

 この事前ポスターにも、さまざま競争がある。

 ひどい場合は、「お宅に○○党のポスターが貼ってあるが、やめたほうがいい」などと脅しの匿名電話がかかってくる場合もあるという。狭い地域に候補者がひしめき合っている激戦地域ではよくあることで、「せっかく貼らせてもらったのに、はがされてしまった」と、嘆いている関係者もいたりする。

 とくに立地のよいお店の場合は、競争が激しい。陣営によっては、選挙前から支持者が定期的に通って、常連客になっておくようだ。そして、選挙が近くなったら、ポスター掲示をお願いするらしい。

 このため、店によっては、選挙が近くなってくると、いろいろなところからポスター貼りの依頼を受け、迷惑しているところも少なくないという。

 たしかに、A党に貼らせておいて、B党に貼らせないとなると、角が立つこともある。客の中にはA党が嫌いな人もいるし、B党が嫌いな人もいるからだ。

 そこで、最近は、事前ポスターは、すべてお断りというところも増えているようだ。しかし、それでも常連客や親しい人に頼まれると、商売の手前なかなか断れない場合も少なくないという。こんな話を聞くと、政治に関係する者として、これでよいものかと本当に悩ましくなってしまう。

 一般の方の平穏な日常生活を乱し、まちかどにまで政争(政治的な利害関係)を持ち込むことは、そろそろ改めなければならない気がしている。

 事前ポスターの「自粛決議」をする地域も

 目黒区議会では、この事前ポスターの掲示を自粛する決議をしているという。

 これに対しては強い反対意見もある。たしかに難しい問題かもしれない。こうした広報手段を一律に禁止してしまうと、宣伝をしなくても当選できる著名人だけが、選挙で有利となるからだ。

 広報手段がなくて困っているのは、実は私も同じ立場である。私は平素から定期的にホームページでの報告の他に区議としての区政報告チラシを配布しているが、個人で配布できる数には限りがあるし、なかなか多くの人の目に止まるものでもない。

 だから、事前ポスターが合理的な存在であるのはよくわかる。無名でないとしても、その存在や主義主張をを知ってもらう機会は、そう多くはないからだ。

 しかし、それでも、事前ポスターで迷惑している区民は少なくないのは事実だ。なぁなぁでやってきたが、もう潮時だろう。そろそろ「新しいルール」を模索すべき時がきていると思うのだ。



 杉並区は、平成十年に美化条例(清潔で美しい杉並区をみんなでつくる条例)を制定した。しかし、杉並にこの美化条例ができても、あまり街の風景は変わらなかった。

 この間には、一度の区議選、一度の都議選、一度の都知事選、二度の国政選挙が実施されているが、同じく選挙の風景も変わらなかった。

 こんな状況もあるので、私自身は事前ポスターをつくらないが、私がそうするだけで解決する問題でもない。何か方法はないものだろうか。



 杉並区議会では、先日この美化条例を全面改正した。事前ポスターの自粛は盛り込まれなかったが、その管理義務は強化された。引き続き検討を深めていきたいと思う。


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