杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 10月4 No.72

発ガン性物質・アスベスト対策はどうなっている?
文京区の事例から考える


 昨年、文京区立のさしがや保育園において、発ガン性物質であるアスベストの飛散防止対策を行うことなく工事作業をしていたことが発覚しました。しかも、工事は、園児を保育している最中に行われていたのです。

 驚くことに、なんとその時、文京区は、この事実関係をつかんでいながら、業者と一緒になってその事実を隠していたそうです。このとき、多くの園児がアスベストを吸引したことは間違いなく、園児のカラダへの影響は、はかりしれないものがあります。

 この時、東京都は「区が条例に定められた通りの届け出を、施工業者に指導するべき」との見解を示しており、この問題に対する文京区の監督責任が問われることとなりました。

 なお、現在、法に基づいた測定や、自治体による立入検査等が行われていますが、個々の調査によっては、必ずしも信頼できる調査が行われていないのが実態のようです。文京区での実例は、いみじくも、それを証明することになりました。
 

 アスベスト その実態

 アスベストは、繊維状に結晶した鉱石。熱や酸・アルカリに強く、非常に丈夫な繊維であるため、断熱材や防音材、自動車の部品などなど、これまで約3,000種類の製品に大量に使われてきたそうです。

 しかし、現在では、アスベストが低濃度でも強い発ガン性があることが指摘されており、労働安全衛生法や大気汚染防止法などで、いちおう規制されるようになっています。しかし、過去の建築物や製品がまだ残っている以上、安心とはいえないのが現実です。

 とくにやっかいなのは、アスベストが耐久性に優れている点。ひとたび人間がアスベストを吸引すると、人体に長くとどまり、発ガンまでの潜伏期間は10年から長くなると40年にも及ぶといわれています。

 その深刻さもあって、アメリカでは、過去にアスベストを原因とする数々の訴訟が起こされたそうです。ちなみに、その際、アスベスト製造会社には懲罰的な賠償が命じられ、それが原因で会社が倒産してしまった・・・というようなエピソードがあるそうです。


 日本のアスベスト対策は?

 さて、日本においても、アスベストは、平成元年(西暦1989年)に「特定粉じん」とされ、アスベストを飛散させる施設などに対する規制が行われ始めています。

 また、同じ年には、東京都においても「アスベスト対策大綱」が制定され、平成6年(西暦1994年)には公害防止条例のなかでもアスベスト対策が打ち出されました。

 その後、平成7年(西暦1995年)1月の阪神・淡路大震災が発生していますが、被害を受けた建築物の解体撤去工事を行う際にアスベストが大量に飛散し、これが大きな社会問題に。このため、国においても平成9年(西暦1997年)の大気汚染防止法改正の際には、建築物の解体によるアスベストの飛散を防止するため、規制が強化されたわけです。

 しかし、実際には、その後も、文京区のように信じられないような事件が起こっているわけです。


 杉並のアスベスト対策は?

 ところが、杉並区では、アスベストに対しての認識が低いようなのです。当選して1年強の身ですから、昔の話は把握していませんが、少なくとも現在においては、間違いなく認識が軽くなってしまっているようです。

 その理由は、

 毎年発行されている『杉並区の環境保全 環境保全レポート』(杉並区版の環境白書)には、アスベストについて全く記載がない
 工事届の保存期間が、たった3年!(アスベストによる発ガンの潜伏期間は、最大40年にも及ぶのですが・・・)
 阪神大震災の教訓がほとんど活かされていない(今後、古い建物の解体がピークを迎えるのですが・・・)

 以下、順にみていきましょう。


毎年発行されている『杉並区の環境保全 環境保全レポート』(杉並区版の環境白書)には、アスベストについて全く記載がない

 まず、杉並区の環境白書ともいえる毎年の「杉並区の環境保全 環境保全レポート」を読んでみました。しかしながら、粉塵については簡単に触れてはあるものの、アスベストについての記述は、全くありませんでした。

 とくに、吹き付けアスベストの問題や、区内の建築物の状況、届出・指導状況などが記載されていないのは問題です。細かいこと言うな!と言われそうですが、住環境の保全という側面から、アスベストが飛散しないよう管理していくことは必要なことですし、意識喚起を図っていくという点でも、次回のレポートより必ず掲載すべきと考えます。さっそく議会で取り上げたいと思っているところです。


工事届の保存期間が、たった3年!(アスベストによる発ガンの潜伏期間は、最大40年にも及ぶのですが・・・)

 (1)でもわかるとおり、区は、今まで、建築主や施工業者に対し、ほとんどアスベストについての指導や啓発活動を行っていなかった可能性があります。

 まず、区の文書分類表(文書の分類やその保存期間がわかるもの)を確認したところ、アスベスト除去工事に関する届出書の保存期間は、たった3年に過ぎないことを発見しました。

 しかし、「発ガンまでの潜伏期間が最大40年」といわれてるのがアスベストなのですから、保存期間が3年というのは、あまりにも短すぎます。幸い、最近では、電子メディアが発達しているのですから、できるかぎり届出内容の永久保存を行うべきです。


 阪神大震災の教訓がほとんど活かされていない(今後、古い建物の解体がピークを迎えるのですが・・・)

 なにより、とくに問題なのは、工事現場です。アスベスト対策には費用がかかるため、現場の職人の方のなかには、工事を開始してアスベストがあることに気がついても、発注者に遠慮し、そのまま黙って工事を続けることがあるというお話です。

 行政が行う工事ですら、文京区のような恥ずかしい事例も報告されていることを考えると、おそらく民間では無防備に工事が進んでいる事例もあるのではないでしょうか。その結果、犠牲になるのは、現場で働く職人をはじめ、アスベストを吸引した近隣住民全員なのです。

 とくに、数年後には、区内でも建物の解体がピークを迎えます。また、近く関東大震災が起こるとも指摘されています。今から民間業者への啓発・指導をきちんと行っておかなければ、知らない間に住民が次々とアスベストを吸引する事態にもなりかねません。事業者への徹底した指導・監督に取り組むことが必要ですし、区民への意識啓発も必要であると考えていますので、11月の定例会で話題にしたいと考えているところです。



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