杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 9月4 No.68

(杉並区21世紀ビジョンを考える その2)
21世紀ビジョン 残された課題は? 


 今回は、その2。その1のつづきになります。その1では、ビジョンができるまでの背景などについて話題にしています。
(その1) 杉並区21世紀ビジョンを考える・その1
21世紀ビジョン(基本構想)とは? その策定の背景

 その2では、ビジョンの提案を踏まえた区政運営を進めるにあたり、残された課題について話題にします。ビジョンには盛り込まれなかったものの、今後早急に検討していくべき課題として、議会で私はとくに次の点を指摘しています。


将来の受益と負担のあり方について、そろそろ区の方針を明確に打ち出していくこと
 =どの程度の区民負担で、どの程度の福祉水準を維持するのか、ハッキリさせること
■他区との合併や政令指定都市をめざした具体的な検討を始めていくこと。
■一般のサラリーマン層や若年世代にも区政参加枠を確保していくこと(審議会委員etc 現在は、地域組織・団体代表が幅をきかせており、きちんとした枠がない→その1参照)

  参考 今回のビジョンの概要はこちら



■1.サービスはタダではない。 受益には負担がつきもの。 


 第一に、将来の受益と負担のあり方については、もうそろそろ区の方針を明確に打ち出して行くべきです。つまり、どの程度の負担で、どの程度の福祉水準を維持するのか、そろそろハッキリさせるべきです。

 これからは、真の地方自治が実現する時代になります。いずれは「税は高いが福祉が充実している都市」とか「環境税を導入して環境に優しいまちづくりをしている都市」といったように、各自治体が、独自に個性的なまちづくりをしていくことができるようになります。要するに、日本も、他の先進諸国と同様、住んでいる自治体が変われば、その様相も変わる時代に入るわけです。実際にも、最近、個性的な施策をドンドン進める自治体も出てきました。

 ただ、すべからく光には影があり、受益(サービス)には負担がつきものです。しかし、今回のビジョンには受益となる施策については詳しいものの、それに対してどの程度の負担をすべきなのか、不明確なままです。


 ●どの程度の負担で、どの程度の福祉水準を保障していくのか


 区はさかんに「杉並らしさ」を訴えたり、また「だれもが人としての尊厳を保ち、住みなれた身近な地域のなかで自立した生活を送ることができるよう、介護など福祉サービスの基盤を整備する」というような説明をしていますが、多くの区民にすれば、果たしてどの程度まで行政や社会的なセーフティネットが自分たちを支えてくれるのか、ほとんど分からないままです。

 かりに介護だけを例にとってみても、現実には介護保険だけで支えることのできない部分が、すでに顕在化しています。そんなときに、たとえば行政から「必要なときに必要なサービスを提供する」というような曖昧な説明を受けても、あまりに漠然としており、一般区民には、それがなかなか理解しがたいことでしょう。それを今後杉並区がどのように受け止めていくか、また、どの程度の負担で、どの程度の福祉水準を保障していくのか、そろそろハッキリ答えを出していかなければならないと思うのです。


 ●高福祉高負担? 中福祉中負担? 低福祉低負担?


 区の財源もそうですが、社会全体の富や資産は、いうまでもなく有限です。さらに、限られた財源しかないなかで、区民の要望のすべてを実現するは不可能なことです。バブルは消えました。杉並には金鉱や油田があるわけではないのですから、「税金が安く、サービスも豊富」という社会の実現は不可能なのです。

 充実した福祉サービス(高福祉)を受けたいというのなら、当然、それに見合った高負担を受け入れていくことが必要でしょう。一方、低福祉でよければ、税や保険料負担は軽く済むかもしれませんが、区民は自立自助の精神をもって老後の準備をしていかなければならないでしょう。しかし、今回のビジョンには、それはいっさい描かれていません。

 区の打ち出したビジョンを受けて、それぞれの区民が、そのビジョンを投影したうえで自らの将来像を描くことができなければ、今回のビジョンが区民の実際の人生設計に寄与することはないでしょう。たんなる区の努力目標だけを書いた作文にとどまっている点が、今回のビジョン最大の欠点だと思います。

 実際に、今回のビジョンを読んでみても、区民は、経済的な問題を含めて25年後に自分たちは、いったいどの程度の準備をしておけばよいのか、まるで理解できないわけです。基本構想という性格上、内容が抽象的になるのは仕方ありませんが、受益と負担のあり方についてまで曖昧になってしまっているのは、どうもいただけません。施策の優先順位については、今後、具体的な長期計画で体現すればよいことでしょう。しかし、受益と負担のあり方について(どの程度の負担で、どの程度のサービスを提供するかの展望)は、長期計画や実施計画で明示できる内容とも思えませんし、本来は基本構想の段階で打ち出しておくべき内容であったと思います。


 ●区民の人生設計を立てやすくするためにも


 現在、いちばん大きな問題は、多くの区民は、自分が年老いた時に、経済的な問題を含めて、どの程度の準備をしておけばよいのかわからず、みな一様に老後に不安を感じ、それが消費にまで影響を与えている点です。区民の人生設計を立てやすくするためにも、こうした状況は、できるだけ早く解消していくべきであると考えます。

 本来は、区長が代わり、地方自治法等が代わり、都区制度改革を経て新しい世紀を迎える今だからこそ、この点でも明確に区の方針を打ち出すべきだったと思います。他の自治体の基本構想をみていても、こうした点については一様に美辞麗句を使用しながら曖昧にしてしまっていますが、この問題をいつまでも不明瞭にしたままにしておくわけにはいかないはずです。どのような形を選択するかは、まさに区民の判断を仰ぐべき大きな問題ですが、今後いつまでも曖昧な方針に終始することのないよう、早いうちに明確な指針を打ち出していくべきだと考えています。


■2.他区との合併も含めて政令指定都市をめざせ!


 現在の杉並は、多くの方が、昼間は区外の会社や学校等に通勤・通学している住宅都市です(=生活の大半を区外で過ごす方が多いということ)。杉並区には寝るためだけに帰ってくるに等しいような区民にとっては、区という行政範囲はあまりに狭く、この狭い範囲の中だけでは、区民のニーズには応えられないのが現実です。

 実際、少し考えてみても、杉並区内だけで仕事も遊びも勉強も完結させるなどということは、多くの区民にとって、不可能なことです。このことは、区政においても同様で、区という狭い範囲では、たとえば、区外にゴミを持ち出さなければ、ゴミの処分もロクにできないのが杉並の置かれた現実なのです。

 残念ながら、区という行政単位はあまりに狭すぎて、杉並区だけで真の自立をしていくということには限界があります。この意味でも、区民の生活実態にできるだけ近い形の行政区画や、適切な広域調整の仕組みを模索し、真に自立した自治体を形成していくことが必要であると考えます。


 ●現在の杉並の姿


 いま日本には、3,200強の区市町村と47の都道府県がありますが、狭い日本にこれほど多くの自治体は不要です。国からの交付税がなければ、職員の人件費も払えないような人口数万人以下の市町村にまで、町長や村長、町会議員や村会議員が大勢存在しているのは、ムダの極みです。これらは1/5〜1/10程度に再編成すべきだと考えます(市町村の大合併。また都道府県も廃止し、道州制<連邦制>を導入するべきです)。

 幸い、国も、市町村合併については、その必要性を認めるようになってきました。このような時代ですから、杉並区もこれまでの制約にとらわれず、柔軟な発想のもとで区の行く末を検討していくべきです。具体的には、そろそろ他区との合併や政令指定都市をめざした検討を始めていくべきです。そもそも都の規模は、身近なまちレベルの問題に対処するにはあまりにも大きすぎて、こまめに対応することができないできました。その一方、都は市町村をまたぐ大きな問題に対処するとしても、今度はあまりにも規模が小さすぎて、解決の決め手に欠けてきたのです。

 なお、杉並区は、人口50万を超えており、日本で第25位の巨大自治体です。普通、人口50万人を超えると、政令指定都市の要件を満たします。関東では横浜市や川崎市などが、すでに政令指定都市となっていますが、これらは都道府県並みの権限をもっており、それぞれ自由で個性的なまちづくりを進めています。杉並も、明確に政令指定都市をめざすことを打ち出していくべきです。


 ●めざすは杉並の自立


 ところが、実際には、杉並をはじめとした東京23区は、いまだに東京都の植民地のような扱いを受けています。地方都市よりは豊かといわれる東京23区ですが、権限や財源といった点からみれば、東京23区は他の市町村よりも格下の自治体なのです。なんといっても、この3月までは、東京23区は、都の内部団体(いわば都の子ども?!)に過ぎない自治体だったのですから。

 それがこの4月、地方自治法が改正され(都区制度改革)、23区も法律上は普通の自治体並みの格になりました。ただ、東京都は、まだ消防や上下水道事業を担当していることから(これらは、ふつう市の仕事なのですが)、市税である固定資産税なども、東京都が課税(横取り)し、その一部分を23区側に配分するという歪な形をとっています。

 この配分をめぐっても、都と23区は対立しており、23区は非常に中途半端な状態に置かれています。消防や下水道事業などを行うことをアピールしたうえで、今後もすべての税財源(固定資産税や法人住民税、特別土地保有税など、ふつうの市町村がもっている税財源)を区に移管するよう求めていくべきです。

 もっとも、法律的には、東京23区が政令指定都市になることは、まだ認められていません。議会での審議の中でも、区は法律に制約があることを理由に、政令指定都市をめざすことに躊躇しているとのお話が出てきました。しかし、国や都の動きを座して待つのではなく、真の自治(自由と責任)を勝ち取る意味でも、むしろ杉並区の側から、合併や政令指定都市の実現に向けた積極的な取り組みを行っていくべきと考えます。


参考 今回のビジョンの概要 (▲本文に戻る
 なお、すでにビジョンは公開されています。詳細は、区の公式ホームページでご確認ください。

■21世紀ビジョンは、地方自治法に規定された基本構想として策定(その1参照)。21世紀の四半世紀を展望し、杉並区の望ましい将来像、目標、施策の基本方針を明らかにした。その優先づけや具体策は、今後の長期計画(10カ年計画)や実施計画(3カ年計画)で規定される。

■杉並区の将来像は、
「みどりの都市」杉並。(「みどりの都市」とは、人と自然と都市の活力が調和した住みよいまちのこと)。

■杉並区は、21世紀に、みどりに象徴される自然豊かな住環境と、商業・産業・文化などの都市の持つ活力が調和して、区民の多様なくらしに対応できる、個性と魅力ある都市として発展していくことをめざす。

■基本指針は、
(1)くらしと環境が調和するまち、(2)安心して健やかにくらせるまち、(3)環境と共生する産業の育成、(4)生涯にわたって学びあうまち。

■前回の基本構想(1988年策定)にはなく、今回新しく出てきたもの(テーマ・用語)としては、次のようなものがあります。

 ●自由と責任 ●選択の意思の尊重(学校教育) ●ITの活用 ●SOHOによる職住近接の労働環境の整備と雇用機会の創出 ●まちに調和した新産業の創業促進・育成(情報通信・環境・福祉・介護・研究開発・知識集約型産業など) ●NPO支援 ●情報リテラシーの育成・向上 ●区民の知る権利の保障 ●行政の説明責任・・・など。
▲本文に戻る

ご意見、ご感想はこちらまで